熊本県立美術館「美術館コレクションⅣ:コレクションを“旅”する」

 昨日も書いたとおり、非常事態宣言で休館などと言った事態が発生する前に、とりあえず行っとく作戦。平日は人少なめで、安心。


 細川家の御用絵師だった矢野良勝の「領内名勝図巻」「全国名勝図巻」を前面に押し出して、「旅」と銘打っての館蔵品の展覧会。なんだが、後半の工芸品や近代洋画家を入れるのは、少々無理矢理のような気がするw
 まあ、展示されているものは、見ていて飽きないもの。

旅へのあこがれ:200年前の絵画にみる旅

 第一室は、熊本藩の御用絵師、矢野良勝が、細川斉茲に命じられて肥後国内の渓谷や滝を描いた「領内名勝図巻」、そして、さらに日本全国の名勝をスケッチ・制作した「全国名勝図巻」、それに関連する作品が紹介される。また、「旅」の延長として、遠い中国を想像した山水画も展示。大きな作品が多くて、見ていて楽しい。
 この人、岩を描かせたら、ピカイチだなあ。
 こういう、江戸時代の風景絵画というのは、環境史の史料として利用できそう。福良滝・七滝を描いた作品では、明らかに樹木が少なく見える。また、日光の華厳の滝も、全体的な風景は現在とあまり変わらないが、崖上の植生は、明らかに樹木が増えている感じがする。


 福羅瀧・七越瀧図。熊本藩向けではなく、副本か別の発注者向けのものと推測されている作品。




 全国名勝図巻の華厳の滝部分。築山家文書から、当該の部分の模写が発見されているのが興味深い。史料レスキューで、絵画文化の厚みみたいなのも、見えてくる。



 全国名勝図巻から厳美渓岩手県一関市の名勝。岩場を流れる川の姿に感銘を受けたのか、かなり誇張した構図になっているという。パノラマで撮れば良かったか。







 全国を行脚して、名勝を取材、絵画作成を行っているので、関連の絵画が発注されている。富士山に関しては、複数、山梨側から描いた作品が残されている。「富嶽之図」は、女坂峠からのスケッチがもとになっているのかな。平原に、渓流部分だけ森が残る姿が描かれている。


 そして、山水画。写真撮影がダメだったけど、波濤図屏風が一番良かった。
 夏冬山水図は、掛け軸の比較的小さな作品だけど、空間構成がいいなあ。



 琴棋書画図屏風。上流階級の風流な遊びを表現した作品。



近代工芸をめぐる旅:細川家の雛飾り

 第二室は、近代工芸品。熊本出身の工芸家3人の作品と、細川家が大正頃にしつらえた雛飾り類を展示。
 熊本関係の工芸家は没年が比較的最近のためか、撮影NG。
ja.wikipedia.org
ja.wikipedia.org
ja.wikipedia.org


 高野松山の乾漆工芸品がすごく良い。特に蝶模様花瓶がデザインといい、蝶の散り具合といい、その蝶の表現といい。素晴らしい。あとは、竹をモチーフにした提盤は、モダンなデザイン。同じく漆芸家の増村益城は、最初に展示されている作品「乾漆梅花食籠」がすきっとした形に、蓋に金粉をまぶした簡素な装飾が印象強い。
 人形作家平田郷陽の作品は、生き人形の技法を継承したものだそうだ。いまいち、人形というのはピンとこない分野だが、童子像は人気あるのが分かる。


 後半は、細川家のしつらえた雛飾り。御所人形に、雛人形、雛調度。ミニチュア大好きなので、調度類が好き。いや、小さい蒔絵作品って、これはなかなか手間がかかっている感じだなあ。
 大正時代前半までは、人形と調度類は別に誂えて、組み合わせるものだったのだそう。調度類は日本橋の専門店や三越など、各所で誂えたものが混在しているという。


 御所人形。「汐汲」、「玩具引」、「金時」の三つ。金時の衣類、なかなか高価そう。







 ひな壇飾り。これ、飾るとき、緊張するだろうなあ。






 雛調度は、3セット。婚礼道具を模した「九曜紋唐草蒔絵雛調度」、「梨地唐草蒔絵雛調度」、そして、台所を丸ごと再現した「雛調度 台所道具」。特に、最後のがいいなあ。















画家の足跡をたどる旅:没後75年 大塚耕二

 菊池出身の洋画家。シュルレアリズムの思潮にのって制作を行っていたが、軍に招集され、フィリピンで戦死。ハイラルからフィリピンということは、第23師団所属だったのかな。
ja.wikipedia.org



 「出発」



 「月夜」



 「群鳥」

 個人的には群鳥が好きかな。なんとなく、カラスの群れにも見える抽象的な絵。