熊本県立美術館「美術館コレクションⅠ」

 県立美術館が寄託・収蔵するコレクションを紹介する展示。だいたい、いつもの通り、第一室が永青文庫関連、第二室が刀剣、陶磁器、近代日本画、第三室が近代絵画。

第一室「細川家の歴史と美」

 永青文庫文化財を武具類、調度類、能道具に分けて展示。


 最初は武具類。鎧が二領。それに陣太鼓、陣笠、采配が展示。陣太鼓はそれなりに使い込まれた感じ。忠利所用と伝わる陣笠は使い込まれた感じはしなかった。まあ、この時代になると非常用のヘルメットみたいな感じか。


 黒皺皮包紺糸射向紅縅二枚胴具足。十三代細川韶邦のために仕立てられた鎧。割とピュアに三斎流の具足という感じだな。袖が無かったり、臑当が隙間がある仕様だったり。





 黒革包紅糸威丸胴具足。こちらは細川茲詮用の鎧。キャンプションでは「弟」となっているけど、ウィキペディアでは廃嫡された兄の初名となってるな。どっちが正しいのだろう。うさぎの前立が印象的。袖があったり、全体に普通の当世具足なのかな。鎧の分類、よく分からないけど。




 続いては調度類。蒔絵の外出用食器類や化粧道具類が印象的。あと、写真撮影禁止だったけど、鼈甲を使った「菊紋鳳凰文蒔絵三組盃」がなんか凄かった。14番から19番の櫛台、鬢台、鉄漿箱、鼻紙台など桜折枝文の一連も調度品は嫁入り道具かなにかで一括して仕立てられたものかな。


 九曜紋牡丹唐草蒔絵茶弁当。こういうのを奉公人が担いで、お花見とかに行ったわけだ。



 青貝微塵秋草蒔絵提重。青貝微塵のきらめきが絢爛豪華な外出用お重。キラキラ。





 山桜に蝶図煙草盆。彫刻がいいなあ。引き出しのつまみの蝶は一部動くとか。



 絵画と能道具は撮影可なし。絵画は「阿蘇下野狩図屏風」と「領内名勝図巻」から矢部手永の分が出品。前者は知識があれば、いろいろな情報が絞り出せそうだけど。最初に陣所で出陣式みたいなことをやっていたり、火をかけて獲物を追い出したり。矢は二俣に別れた雁股が使用されていたり。
 能道具は能面、羽団扇、小鼓胴、大鼓胴、太鼓胴、天冠、龍戴が展示。鼓類は、角の蒔絵が剥がれていたり、使用痕が。役によっては、冠をかぶったり、頭に龍の絵を描いたものを載っけたりするのか。

第二室「熊本の工芸と近代絵画」

 タイトルの通り、工芸品と近代日本画を展示。工芸品は刀に、江戸時代を中心とする陶磁器の展示。赤羽刀がよく展示されるな。陶磁器に関しては、こうしてみるといろいろな窯があるな。あと、全体的に茶色い。
 近代日本画菱田春草「落葉」(重要文化財)、中山神風「説話図屏風」、堅山南風「来迎図」の三点。「落葉」が突出して良いなあ。あと、「来迎図」の左右の掛け軸に描かれている山が、なんか点心っぽい…


 折返銘国行。鎌倉時代に京都の名工来国行によって鍛えられた刀。元は太刀だったが、茎を折り返して、打刀に改造されているという。太刀は目釘が二本で、打刀は一本なのか。目釘穴の一方が、金属で塞がれているのが印象的。



 無名延寿。肥後の武士団菊池氏のお抱え刀鍛冶として、菊池地域で作刀を行った延寿派の刀工による刀。目釘穴が二つ開いてるから、太刀かな。




 銘九州肥後同田貫藤原正國。割と頻繁に展示されている。同田貫派の刀。個人的にはこのくらい無骨なのが好みかな。刀の美しさって、よく分からないのだけど。



 銘九州肥後同田貫左馬介。同じく同田貫派の刀。左馬介とは、正国の兄、清国の可能性がある、と。



 灰釉藁灰釉四方浅鉢。ここから3点、小代焼。熊本の陶器、灰釉や褐釉でめちゃくちゃ茶色いな。茶褐色の褐釉を全体にかけ、藁灰釉を流しがけ。藁灰釉が白いワンポイントに。



 藁灰釉鉄絵福寿字文長角皿。福寿の字を書いたけど、絵の具が藁灰釉に溶けて読めなくなっちゃった。言われれば福寿文だなあ。




 灰釉藁灰釉竹形掛花入。文様がいいなあ。




 鉄釉肩衝茶入。ここから3点は八代焼。こちらも、細川家が入国した時に、豊前からの移入された窯。



 象嵌福寿字文水指。八代焼は白土象嵌瀟洒な模様を描くのが特徴。「福如東海 寿以南山」の文字が象嵌されている。



 象嵌暦手壺。全面に文様を彫り込むには、高度な技術が必要であるそうな。これ、好き。献上品の容器に同様の壺が使われたとか。



 褐釉藁灰釉四方向付。轟焼として伝わる作品。轟焼は、窯跡が見つかっていないそうな。



 褐釉藁灰釉鶴首徳利。球磨村一勝地一勝地焼の徳利。陶石を使っているため、硬いシャープな造形。シャープさが良いなあ。



 褐釉藁灰釉注口付瓶。天草の上津深江焼。なんか、色合いと良い、膨らみの線と言い、好き。素朴な雰囲気が良い。




 染付九曜紋山水文花入。細川家の御用窯、網田焼の染付。これ、陶石はどこから入手したんだろうか。やっぱり天草かな。



 染付兎文長角皿。これも網田焼。兎の絵、スタンプじゃなくて、手書きだそうですよ、奥様。




 色絵椿文小皿。天草の高浜焼の色絵磁器。右側は金継ぎなのか、金泥の模様なのか。



 染付葡萄文鉢。これは明治に入ってからの高浜焼の作品。なんか、絵付けはともかくとして、釉薬の透明感のなさとか、市場が変わった感じだな。


第三室「近現代洋画と西洋絵画」

 最後は熊本に関係する人物による洋画と戦後アメリカのポップアート作品を展示。県立美術館、後者のポップアート作品もコレクションしていたのね。個人的には、現代美術というのにあまり興味がないんだけど。


 ここは、写真撮影可の作品がほとんどなし。まあ、死去の年代からして、著作権が維持されている人物けっこう多そうだし。


 熊本関連近代洋画では、地元の画家を中心に、藤田嗣治の作品も収集されている。今回は二点が展示。個人的に印象に残った作品は、海老原喜之助「芸」、牛島憲之「白映え」「煙突」あたりかな。前者は大道芸の芸人と観客を局限まで省略して描いている。背景が真っ白だけに、なにやらバーベルをもっちあげる兄ちゃんと農夫みたいな道具を持った女性の組み合わせがどういう状況か、一瞬掴めず混乱した。街路で芸を披露している状況なら分かるわ。「白映え」は、草地を歩く牛の足だけ描いたのかと思ったら、湿地に生えてる木を表現したものなんだとか。意外性というか、解説されないと分からない内容がおもしろい。「煙突」は、まあ煙突がドカーンと。


 アメリカのポップアート作品は6点が展示。
 ジャスパー・ジョーンズ「薄雪」が印象深い。色彩に目が引きつけられる。あと、長方形に区切って、諸処に引き手っぽいスタンプが押してあって、襖っぽい雰囲気がある。日本の伝統芸能にインスピレーションを得たそうだから、意識的かも。
 アンディ・ウォーホルの「ヨゼフ・ボイス」は、反復がゲシュタルト崩壊を引き起こすなあ。



 大塚耕二「出発」。青と白のコントラスト、飛び立つ蝶が印象深い。