熊本県立美術館「美術館コレクションⅡ」展

 美術展トリプルヘッダーのラスト。つーか、処理していくのに時間がかかりすぎてるなあ…
 近代工芸がメインで、撮影禁止の作品が多かったので、今回写真少なめ。


 いつもの通り、3つの展示室ごとにテーマを分けている。第一室「細川家の歴史と美」は永青文庫所蔵品を中心に、細川家ゆかりの美術工芸品を展示。第二室「熊本の美術」は漆芸品を中心に戦後の工芸作品と昭和に入ってからの洋画。第三室は「戦後の熊本美術:海老原喜之助とその教え子たち」ということで、海老原美術研究所の門下生を紹介する。

第一室 細川家の歴史と美

 第一室は、永青文庫寄託品を中心とする細川家の美術工芸品を展示。今回は、火事装束や儀礼用の正装が紹介されているところがおもしろい。
 全体の構成は、武具類、嫁入り道具類、絵画、その他で今回は装束類となっている。


 武具類は具足に、陣貝と陣笠、馬具類。陣笠も当主用のが準備されているのね。
 黒皺革包紺糸射向紅威二枚胴具足。19世紀に入ってからの細川斉護所用の具足。割と基本に忠実な越中様。軽量化の努力がすごいなあ。



 花車文蒔絵鞍。華麗な鞍。17世紀のものだそうな。あまり使用痕なし。



 婚礼調度品や夫人の日用品系は、貝合の貝と貝桶、そして小袖が2着など。
 九曜紋蒔絵貝桶・合貝。貝に描かれた絵もすごいけど、これだけ大きいハマグリを揃えるのも大変そうだなあ。元々組み合わさっていた貝以外は組み合わないため、夫婦和合の象徴として婚礼調度に組み込まれ、その移送・受け渡しはかなり仰々しいものであったという。




 白地唐扇花卉模様小袖、浅葱地御所解模様小袖。擦匹田や白上げという型染め?と刺繍が施された豪華な小袖。どの程度の頻度で着ていたのだろうか。






 絵画は「一の谷・屋島合戦図屏風」と「領内名勝図巻」の北里手永の巻が展示。
 「一の谷・屋島合戦図屏風」はデカくて、迫力満点。一方で、平家物語に詳しくないから、どういう時系列で描かれているのか、よく分からないところも。





 兜を弓の先にさしてしゃがんでる姿が印象深い。これは、故実かなんかで伝承されてきたのだろうか。



 ここが、那須与一の遠矢のあたりなのかな?


 ラストのその他部分は、火事装束や朝廷儀礼の正装のパーツ、印章が展示。
 大名火消しみたいな組織がある以上、大名本人も相応の火事装束が準備されているのね。あとは、浅沓がめちゃくちゃ歩きにくそうとか。
 黒漆塗十六間筋兜。火災装束に含まれる火事兜。紙に漆を塗ったものだから、火の粉による火傷を防ぐ効果がメインなのかな。
 全体にすごく浅いのが不思議なんだけど、帽子みたいなノリで被るのか、下の方が伸縮するのか。



第二室 熊本の美術

 近代の熊本の工芸家と画家の作品がメイン。他に、伝細川忠興作の茶杓加藤清正書状などが展示。生没年的に著作権が切れてない作家が多いためか、今回は写真撮影可が一点のみだった。
 しかし、今西コレクションのカバー範囲の広さがすごいなあ。江戸絵画だけではなく、近代工芸にも目配り。しかも、その範囲が漆芸品、竹細工、焼き物、衣装人形までに及ぶという。保管がめちゃくちゃ大変そう。
 近代絵画は、昭和の入ってからの洋画がメイン。


 高野松山、増村益城音丸耕堂といった漆芸家の作品がいいなあ。どれも魅力的だけど、音丸耕堂「彫漆花瓶」が一番かな。色違いの漆を重ねて塗って、上から削ることで、グラデーション模様が作り出されていく。近代には行って化学染料が導入されて、鮮やかな色が出せるようになったことも合間っての魅力。
 他には変わり塗りの高野松山「乾漆提盆」、朱のぼかし塗りが印象的な増村益城「乾漆盛器(日の丸)」が目に付いた。
 陶磁器では、加藤幸兵衛「萌黄金彩吉祥文水指」が色が良かったとか、永楽善五郎「紅安南平茶碗」がパステル調の色味が良いなあ。


 展示されている加藤清正の手紙も興味深い。朝鮮在陣中に、現地から送った指示の手紙なんだけど、人員だの、資材だの、いろいろと苦労して入手していたのだなあ。アレな人員を送り込むと、「うさん成者」を二度と送り込まないようにと怒られる。


 第二室の奥側は近代の洋画。風景画から抽象画まで。
 牛島憲之「秋川」は関東に移り住んでからの作品。昭和9年に描かれた農村風景なのだが、この時代だと農耕馬が普通にたくさんいるんだなあ、と。
 野田哲也「日記 1968年8月22日」は、謄写ファックスを利用した作品。コピーも版画という解釈か。


 山田隆憲「ベランダの女」。涼しげ。


第三室 熊本の戦後美術:海老原喜之助とその教え子たち

 第三室は、熊本に疎開してきて、戦後の1950年に熊本市に海老原美術研究所を開いた海老原喜之助とその教え子たちの作品を紹介している。ここらあたりは、重点的に集めている分野なのかな。
 江田豊の作品が、新収蔵の作品も含めて5点並んでいるのが目立つ。というか、作風の変化がすごいなあ。


 一見して目を引くのが海老原喜之助「群馬出動」。これは関東に拠点を移してから制作された作品らしいが、埴輪の馬のような造形で、カラフルな色の馬がたくさん並んでいる迫力のある絵。本当に、これから出動感のある。
 芹沢光行「影(街)」は、保管が大変そうな突起がたくさんあって、取り扱いに気を使いそうだなあというのが、作品云々より先に来る感じ。