甚野尚志ほか編『中世ヨーロッパを生きる』

中世ヨーロッパを生きる

中世ヨーロッパを生きる

中世ヨーロッパの人々の生活感情や環境に関する論考を、自然と人間、日常生活の作法、人々の絆、出会いのかたちの4部に分けて集めた、アンソロジー
個人的には、有光秀行の「中世アイリッシュ海風雲録」、堀越宏一「水車は領主のものか」、亀長洋子「遺言にみる中世人の世界」、甚野尚志「書簡とコミュニケーション」あたりが興味ある。
「中世アイリッシュ海風雲録」は、11から13世紀あたりに存在した、「マンと諸島の王国」などアイリッシュ海マン島を中心にブリテン島西岸、その周辺の島々、アイルランド東岸に存在した政治的なまとまりについての簡単な通史。史料的に難しそうな分野ではあるが、アイリッシュ海の両岸に広がる緩い政治的なつながりを可能にしたネットワークはどんなものだったのか興味深い。
「水車は領主のものか」は、なぜ水車が領主の所有に帰しているのかを、追求したもの。水車の維持に多額の費用がかかるとともに、水量や堰の設置など水系のある程度広い範囲で利害の調整を行う必要があったことが要因であったことを指摘している。
残りの2つは、このような史料に関心があるだけ。本書の文章は、興味から外れる。