『図説湾岸戦争』

〈図説〉湾岸戦争 (Rekishi gunzo series―Modern warfare)

〈図説〉湾岸戦争 (Rekishi gunzo series―Modern warfare)

 湾岸戦争についての解説本。著者によって、出来不出来の差はあるが、なかなかまとまっている。前史から解説してある。また、補給に紙幅が割かれているのがいい。一方で、人物の部分はなんか怪しい。フセインが貧しい家の生まれという話は権力掌握後のプロパガンダでは?ティクリト閥は、それ以前から一定の影響力を持った勢力だったようだし、出身家系はそれほど悪くないはず(何代か続く軍人家系に属していたのでは)。そもそも、高等教育を受けているあたりが、すでに一般の家庭ではないと思うのだが。
 本書の欠点は、本書の各著者が参照した情報源についての、レファレンスがないこと。学研のこの手の軍事本は、結構質が高いだけに残念。
 あと、本書の出版が、2003年4月で、内容はイラク戦争の直前あたりに書かれているが、それが今見るとおもしろい。本書では、イラク大量破壊兵器が、あるだろう的ニュアンスで書かれているが、現在ではイラク戦争開戦の時点では、完全に存在しなかったことが分かっている。しかし、少なくとも化学兵器に関しては、イラン・イラク戦争湾岸戦争での使用の事実から、90年代頭までは存在したことは確かで、いつの時点で化学兵器が使用不能になり、いつの時点で核開発プロジェクトが維持できなくなったのかは、ちょっと知りたいところ。
 62ページに、

 現在の「ジュニア」ブッシュ大統領は、イラクに対する戦争目標を「大量破壊兵器の解体」とともに、「フセイン政権の打倒」にまで踏み込む構えで戦争準備を推進している。「ジュニア」ブッシュは果たして、軍事的勝利を政治的勝利に結びつけることができるや否や――。

とある。で、答え。否。戦前の時点での最悪の予想になりつつある。まあ、政権内の穏健派と強硬派を制御して、一致して当たらせることができなかった時点で、ブッシュの敗北は確定していたわけだが…
 現在の時点で見ると、フセイン政権は、首都での篭城・市街戦を実行することもできないほど、箍が緩んでいた。戦時体制という圧力の下、かろうじて維持できていたのだろう。そう考えると、平和攻勢こそが、取るべき手段だったように思うのだが。密輸組織をフセイン家の関係者が独占し、不満が高まっていたと聞く。貿易の自由化だけでも、体制の変動を余儀なくされるほどのインパクトが在ったのではないだろうか。