森公章『奈良貴族の時代史:長屋王家木簡と北宮王家』

 長屋王家木簡を中心に、各種史料を組み合わせて、「北宮王家」の盛衰と奈良時代の政治史の関連、奈良時代の貴族や官人の家政機構など生活の各側面を明らかにする。教科書で習う「律令制」と実際の歴史の流れ、特に班田収受の制度の中でどうして豪族や貴族が存立しえるのか、そこには実際にはどんな社会があったのか、そのあたりのイメージのズレがある。そのあたりお修正するヒントになればということで、借り出して来た本。
 しかし、なんかえらく難しかった。断片的な情報を積み上げて論じているから素人には分かりにくい。用語が分からないので素人には分かりにくい。血筋が錯綜しまくっているので素人に(ry。木簡などの当時の史料が全然読めないので(ry。いや、冗談抜きに37ページの系譜なんかを見ると、叔母と甥とか叔父と姪、兄弟姉妹の結婚がゾロゾロあるし。当時の血縁意識が現在と違うと言うのはあるのだろうけど。あと、真面目に読むなら、日本史(特に古代史)の辞書が必須。手元にないから、流し読みしたけど。
 前述のように、本書は天武天皇の長男高市皇子から長屋王安宿王、さらに高階真人氏へと流れる「北宮王家」の盛衰に視点を置いて、奈良時代の政治史を叙述している。兄弟間での継承から直系子孫へと天皇位の継承原理が変化、律令制の導入する、さらに藤原氏の台頭と言う状況の中で、有力王族から長屋王の変橘奈良麻呂の乱によって中級官人の家へと変化していく状況を描く。
 長屋王家木簡から復元される長屋王家の家政の状況も興味深い。家政の組織、田庄の分布、各地の封戸との関係、女性の家政への参画。複数世代に継承される宗像氏や舎人などの関係。このあたりの地域有力者と中央貴族の関係から描かれる奈良時代政治史と言うのも興味深いのではないか。
 また、藤原氏を押し上げた力の一つである後宮女官の影響力が興味深い。天皇の取次ぎを独占する尚侍(ないしのかみ)の影響力、特に女性天皇が続いた奈良時代には天皇との信頼関係を元に強力な影響力を振るったこと。奈良時代に権力を握った大臣の妻が、後宮で要職につき夫の権力強化を支えたと言う話は、特に心引かれる。また、この時代の上級女性の活力。権力を目指して夫を変えた橘三千代のエピソードが、後の平安時代のイメージと違っていて面白い。