川崎一朗『スロー地震とは何か:巨大地震予知の可能性を探る』

 うーむ、わかったような分からないような。基本的に、数式の読み方がわからん。もともと対数を理解し損ねているというあたりで、どうしようもない状況なんだが(恥)。
 通常の地震では地震断層面の拡大のスピードが秒速2-3キロなのに対して、その速度が秒速300メートル以下と極端に遅いものをスロー地震というそうだ。このようなゆっくりとした揺れは、極端な長周期となるため、通常の地震計では検出しにくかったそうだ。そのため、最近になるまで、発見されなかったという。統計学的な処理をしてノイズを取り除いて、やっと検知できるのだとか。阪神大震災後に整備されたGPSによる地殻変動の観測網によって、かなり頻繁に発見できるようになったという。最近の地震学の進歩から、地下の状況の検知がかなりできるようになったこと。にもかかわらず、未だに不十分なものでしかないことが明らかにされる。また、このスロー地震が、地殻に蓄積された歪みの一部を解消しているという。
 しかしまあ、「アスペリティ」とか、よく分からない。6章と7章が地震学の説明になるのだが、どうにも頭の中に構図ができないというか。定常すべりとか。20世紀末から21世紀初頭にかけて急速に知見が蓄積されたのだなと感銘は受けるのだが。
 また、本書では、東海・東南海・南海地震連動による巨大地震をメインターゲットに据えているが、東北でそれに匹敵するような巨大地震が発生し、とんでもない被害を及ぼしたあたりが、皮肉というか。自然災害というのは、人間の警戒の隙を狙ってくるものだなと感じた。


 以下、メモ:

 専門外の人は「何故地震が起こるのか?」と不思議に思う。しかし、地震学の専門家にとって、むしろ、「何故地震が起こらないのか?」のほうが不思議なのである。
 太平洋プレートは、三陸東方沖の日本海溝や北海道と千島南方沖の千島海溝から年間約九?の高速で日本列島の下に沈み込んでいく。そうすると、マグニチュード八クラスの巨大地震が三〇年-四〇年の間隔で繰り返してもいいはずだが、現実には五〇年から一〇〇年程度の間隔で繰り返しているように見える。太平洋プレートの沈み込み速度から期待されるだけの地震は発生していない。伊豆・小笠原海溝マリアナ海溝はもっと極端である。日本海溝と同様に太平洋プレートが年間約九?の高速で沈み込んでいくのに、マグニチュード八クラスのプレート境界型巨大地震は全く知られていない。プレート境界面で何が生じているかを十分に理解していることは、プレート境界型巨大地震の予知にとって根本的に重要な問題であるはずだが、意外とよくわかっていない。p.3-4

 その一部は、本書で描かれるスロー地震なんだろうけど、他にも歪みが蓄積されて東日本大震災のような巨大地震になったりしているのだろうな。

 少し落ち着いてから、私は何世代も古いホスト計算機を奇貨と考えることにした。これほど計算機環境が劣悪ということは、逆に早い機会に買い換えの予算が認められるということだろう。買い換えのときには比較的最新の計算機が入り、そのときは比較的よい計算機環境になるだろうと楽観的に考えることにした。現実は逆になった。東京大学京都大学など大きい大学では、ほぼ二年から三年間隔で最新の大型計算機に更新されていったのに、富山大学は1985年にいたるまでホスト計算機更新の予算はつかなかった。これはつらかった。格差はますます拡大し、計算能力の格差は1000分の1以下になった。p.56-7

 旧帝大と地方大学の格差。この状況で「大学間競争」とか「自由競争」とか言われてもどうしようもないよなあ。むしろ東大や京大を、独立させるべきだろうと思う。まあ、平等に予算削減の魔手にさらされつつある状況のようだが。
 しかし、そうか。80年代あたりまではパンチカード式の大型計算機で理学部なんかは計算していたのだな。今はどうなっているか知らないが。

 カップリングの数値がこれ以上大きくならない一つの原因は、過去約1400年間歴史地震の記録がない非常に不思議な釜石沖・宮古沖の小セグメント(北緯39度-40度、東経142度-143度)があるからである。何故かはわからない。神様は別の謎を用意しているようである。北緯40.6度から42度の間(1968年十勝沖地震震源域の北半分)や北緯39度以南のサイスモ・ジオデティック・カップリングがどうなっているかは現在の時点でもわからない。p.76

 ここも、今回の東日本大震災で動いたんだろうな。最新の地震学の視点からみるとどういう議論になるのだろうか。

 図?-8は、諏訪謡子が東北大学修士研究(2003年)で求めた太平洋プレート境界面のバックスリップの分布図である。この図から、海岸線から100?ほど沖ではバックスリップは最大10?/年に達している。太平洋プレートの沈み込み速度(8-9cm/年)より大きいのは矛盾であるが、GPS観測網は陸にしかなく、観測網の外の海域での分解能は乏しいからである。このような不確実要素を考慮しても、宮城県沖から茨城県沖のプレート沈み込み境界面は強く固着しているといえるだろう。茨城県沖ではバックスリップが比較的小さいが、それでも4-6cm/年もあり、茨城県沖の太平洋プレートの境界面も相当固く固着しているということができる。1990年代前半まで常識であった「太平洋プレート沈み込み境界面安定滑り仮説」が正しくないことは明らかである。p.80-1

 ちょうどその部分が破壊したんだよな…

 国土地理院で列島規模の地殻変動の研究を一貫してリードしてきた多田尭(2002年逝去)はこの帯状部分を「新潟-神戸歪み集中帯」と名付けた。プレート境界並みの高速変形が進行する、地形や地質をほとんど無視して長さ数百kmにも延びる歪み集中帯など、GPS時代以前には誰が想像しただろうか。完全に意表を突かれた。この歪み集中帯では、小さく見積もっても毎年10のマイナス7乗の歪みが蓄積していることになる。単純に考えると、数十年に一度程度の割合でMj7程度の内陸型大地震が発生してもよい計算になるが、それほどの地震は発生していない。地殻深部で何が起こっているのか、答えは得られていない。p.107-8

 GPS観測網(GEONET)の威力と、そこから導き出された謎。

 10数日から数か月の長周期帯での安定性では地殻変動連続観測よりもGPSのほうがまさっているので、最近では、長周期の地殻変動モニターの主役の座はGEONETに譲ったきらいがある。しかし、より短い数時間から数日の周期帯における感度では地殻変動連続観測のほうがまさっており、直前予知を目指すには欠かすことができない。「東海地震は予知できる可能性がある」とわれるのは、要するに、予想地震断層面がこのような地殻変動連続観測網の直下にあるからである。p.116

 ほう。

 次の南海地震東南海地震が同時に発生したときには、日本が経験したことのない広域長期災害になるであろう。救助の手が自分の住む町におよぶのにさえ、何週間もかかることもありうる。自分の家と住む町の被害を最小に抑える努力がともかく重要である。p.213

 次の南海地震東南海地震マグニチュードは8以上で、このときの大坂、名古屋、東京の地震動は、2004年紀伊半島はるか沖地震による地震動より何倍も大きいと予想される。次の南海地震東南海地震のときには、大坂や名古屋はもちろん、東京の超高層ビルは、かつて経験したことのない事態に陥るだろう。事実、第七章で述べたように、1985年メキシコ地震のときには、震源から400Km離れた人口2000万人の巨大都市メキシコ・シティの中心部では、周期三秒から四秒程度の強震動が数分も継続し、耐震基準が低かったとはいえ、ほぼ500棟もビルが倒壊、死者約一万人を出す大災害となったのである。p.215-6

 なんというか、場所が東北に移っただけで、記述が東日本大震災のことを言っているようなのが。未だに避難所の環境改善などは進んでいないしな。高層ビルの長時間の揺れなんかも。

 ただ、既存のHi-net傾斜計の地殻変動連続観測網でも不十分といわざるをえない。ボアホールの100mの深さは、数秒から数十秒の周期帯の地震観測には威力を発揮するが、多くの観測点では、数十分から数時間の変動の観測では、大気圧変化や様々な影響を受け、ノイズが十分に小さくならない。感度が高い分、それだけ静かな観測環境が必要なのである。震源核を、確実に、一日でも早く捕捉するためには、紀伊半島から四国にかけて、南関東や東海地域並みのkm級のボアホール観測孔ネットワークが欲しいところである。p.226

 金がかかるもんですなあ…