深沢秋男『旗本夫人が見た江戸のたそがれ:井関隆子のエスプリ日記』

旗本夫人が見た江戸のたそがれ―井関隆子のエスプリ日記 (文春新書 606)

旗本夫人が見た江戸のたそがれ―井関隆子のエスプリ日記 (文春新書 606)

 サクサク読める本。御広敷御用人など将軍のそばに近侍する役職を受け継いできた家系に嫁いできた夫人の日記から見える江戸時代。江戸の年中行事などの生活、旗本にして幕府中枢から情報を得られるという特別な位置から見た天保の改革や将軍家の人々。
 井関隆子の教養や文才と広敷用人という将軍の私生活が見える役職の人間の家の長老的立場という位置が結びついて、この史料を有用なものにしているようだ。
 大御所家斉の死去の日付の話は興味深い。内部関係者から直接聞いた情報を私的に書きとめたものと、多くの人間がかかわった政治性の強い公的編纂物では、前者の方が信頼できると考えることができるだろうな。書いた人間の位置が位置だけに、単なる無責任な噂とは考え難いし。あとは、大奥の火災の話なども興味深い。