もっと長い橋、もっと丈夫なビル―未知の領域に挑んだ技術者たちの物語 (朝日選書)
- 作者: ヘンリーペトロスキー,Henry Petroski,松浦俊輔
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2006/08
- メディア: 単行本
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さまざまな橋や巨大建造物が、どのような課題を解決して建設されたか。技術的課題だけでなく、政治的・文化的な課題もまた、橋やビルの姿を決める大きな要素であること。シアトル近郊に複数存在する浮体橋の紹介も興味深い。土地の条件さえ許せば、恒久的な浮橋の設置も行なわれるんだな。日本では無理そうだけど。
失敗事例もいくつか紹介されている。1994年のロサンゼルス・ノースリッジ地震で倒壊した高速道路の高架橋、例の「日本では起こりえません」で有名な話。一年後に、日本でも直下型地震で高速道路の高架が倒壊するわけだが。あとは、911テロで崩壊した世界貿易センタービルの事例やセントフランシス・ダムの崩壊。テキサス農工大学で伝統となっていた巨大かがり火「ボンファイア」の崩落の事例も興味深い。丸太8000本、900トンの構造物が建造途中で崩落し、学生数十人が死傷した。これに関し、「伝統」の名のもとに、設計の情報が残されることなく、細かな改設計の累積が惨劇を引き起こしたこと。建造者たちの「過信」を指摘しているのが興味深い。
あとは、三峡ダムの建設中の見学の話や燃料電池の話、20世紀半ばに出された夢想的な巨大建設プロジェクトの話など。昔の方が巨大土木プロジェクトの夢想が豊かだったのだな。サハラ砂漠の真ん中に巨大な湖をつくるとか、地中海を干拓するとか。どれも気候へのインパクトを考えると、技術と金がそろってもやりたくない感じだ。燃料電池の話もおもしろかったな。2003年に書かれたものだが、この時期次世代の自動車動力源として、燃料電池がもてはやされていたんだよな。ここのところ、シェールガス革命の喧騒と温暖化懐疑派の巻き返しで影が薄くなってしまっているが、10年くらいでトレンドがまったく変わってしまうのがおもしろい。