鈴木純子『地図資料概説:国立国会図書館所蔵資料を中心に』

 政府公刊の地形図や主題図を中心とした、地図資料の紹介と「地図図書館学」への展望。第一章が基礎知識、第二章が日本における近代以降の公的な地図製作の歴史、第三章が主題図に関して、第四章が海外の地図事情を政府による地形図製作を中心に、第五章が近世以前の日本の地図の歴史と種類、第六章が地図図書館学への序章となっている。まあ、教科書だけに相応な文体で、ページ数の割に、それなりに読むのに時間がかかった。まとまった知識を得るには有用な本。最後の参考文献も有用。自分で持っておきたいな。
 出版が1996年のため、最近のネットでの地理情報の公開やGISなどについては論究されていないが、昔の地図について知りたい人間にとっては現在も有用。
 しかし、一枚もので、紙の大きさもまちまちだったり、独特だったりする地形図の類は、整理が大変。本書でも、地図図書館学の問題として議論されている。私も丸めた状態で持っているけど、自分が持っている地形図を把握できない… まして、紙の大きさも形態もまちまちな観光ガイドやマップなんかの雑多な民間の出版物は、もうどうしようもない混沌。ああいうのを個人で整理するソフトや目録の取り方で、良い方法はないものか。一山あるのだが、手の着けようが。奥付もないから、大まかな年代しかわからないのも多いし。


 以下、メモ。熊本平野周辺に関連する情報を中心に:

 明治10年ごろまでの参謀局による地図としては、「亜細亜東部輿地図」「清国渤海地方図」「清国北京全図」「北河総図」「朝鮮全図」「大日本全図」「九州全図」「薩摩大隅日向三国図」「熊本近傍図」「鹿児島県実測図」(図2-2)「山形宮城両県近傍図」「習志野原周回邨落図」等々がある。p.22

 「熊本近傍図」は複製らしきものが県立図書館に所蔵している。

 迅速測図としては関東のものが規模も大きく、日本最初の地形図シリーズとしてよく知られているが、ほかにも広く各地の鎮台、師団、連隊等による、2万分の1、5千分の1などの迅速図が残されており、近代化進行以前の各地の景観をそのまま伝える史料として利用価値が高い。p.33

 とりあえず熊本にあった第六師団も作製しているはず。所蔵場所や残存状況はそのうち調べる。正式2万分の1地形図は、柏書房のリプリントが県立図書館にある。ただ、あれってコピーしにくいんだよな。高精度の画像が入手できるなら、入手したいところ。
熊本第6師団図の初期整備 ど、どこかにコピーが埋まっているはず(シクシク。

 都市図の多くは都市計画、地籍確認(地番界の明示)、案内図としての地籍表示などを主な目的として平面プランに重点を置いているが、地形や建物の形を忠実に収録した大縮尺の都市図として参謀本部の作成になる「5千分の1東京測量図」がある。刊行年は明治19年(1886)の製版であるが、1で紹介した迅速2万分の1地形図と同様、原図と刊行図が様式を異にする。手書きの彩色原図については複製図「参謀本部測量局五千分の一東京測量原図」(日本地図センター 1984)がある。収図域は都心部に限られるが、井戸・上水道等も記入され、邸宅内の建物の配置なども読み取れる精細な地図である。各師団司令部所在地等で類似の作業を行った所もあると見られ、当館所蔵資料中には、金沢市熊本市の手書き測量図がある。p.46

 おお、そんなものがあるのか。誰か復刻してくれ!

 主題図の出版の形態の一つとして、主題アトラスがある。「日本地質アトラス」「日本地質図大系」「日本気候図」「日本の環境アトラス」「日本言語地図帳」、また、さきに例としてあげた「活断層図」「液状化履歴図」など、単一または一定の観点による主題図を集成するもののほか、各国の政府機関やそれに準ずる大学・学会などが作成するナショナルアトラス(国勢地図帳)があり、それぞれの国に関するさまざまな主題図を集大成して、その現況を表現する。日本では国土地理院によって「日本国勢地図帳」(1977)、「地域計画アトラス-国土の現況とその歩み」(1984)、「新版日本国勢地図帳」(1990)が作られている。p.57

 「液状化履歴図」や「地域計画アトラス-国土の現況とその歩み」が興味あるな。前者は新版が『日本の液状化履歴マップ 745-2008』として出版されている。2万円か。興味本位で買うにはちょっと厳しいお値段。どっか図書館に入らないかな。後者は国土地理院のサイトで閲覧できる→地域計画アトラス 国土の現況とその歩み 閲覧サービス。まあ、ネットよりも冊子体の方が読みやすそうな気がするけど。

 組織的な国内の地質調査については、20万分の1地質図の整備を中心とする「内国地質調査施行之主意」(明治13〈1880〉)を基礎に、先ず地方別40万分の1に豫察調査が開始されている。当時は基図となる一般図(地形図・地勢図)が未整備だったため、内部に地形課を置いて、基図作製もあわせて行われた。これらは内務省の測量の基礎に立つもので、40万分の1地形図および20万分の1地形詳図は、陸地測量部の輯製20万分の1図とほぼ同時代という早い時期に広域をカバーした一般図として注目される。40万分の1豫察地形図は明治27年(1894)に全国4図(北海道を除く)が完成し、これに基づいて編集された100万分の1日本地質図が、明治30年(1897)の第7回万国地質学会議に出品され、高い評価を受けたという。この図はその後明治32年(1899)に刊行されている(説明書1900、英文版1902)。
 明治末から大正年間にかけては、それまで並行して行われてきた土性調査(旧国郡別土性図および報告書を地図室でも多数所蔵している)が農業試験所に移管されて、地質調査所は地質専務となり、国内の地質調査が進展する。しかし、20万分の1の精度では、岩相や地質構造の概観はできるが本格的な地質の解明のためには不十分なため、大正6年(1917)には7.5万分の1地質図320面による全国カバーの計画がたてられ、同10年(1921)には第1号の庄原図幅が刊行された。同じ年、さきに完成した20万分の1地質詳図を総合した200万分の1総図が作成され、その後長期にわたる小縮尺地質図の基礎となった。地質調査所作成の地質図の作成経過は(図3-3)のようなものである。p.63

 輯製20万分の1図は柏書房からのリプリントが存在する。地質図の基図についてはネットではよく分からない。直接問い合わせるのがいいのかねえ。土性調査に関しては市史に収録されているようだ。あとで、別編2をチェックする。
『輯製20万分1図』データの活用に関する一考察
地図測量人国記:【熊本県】 神足勝記(1854-1937)

〈利水現況図・地下水マップ〉(国土庁ほか)
 地域の水文状況や水の利用実態を把握するための水調査(昭和26年〈1951〉制定の国土調査法に基づく)として水系調査と地下水調査が行われている。
 利水現況図は水系調査をまとめたもので、全国の一級水系73系についての国土庁による調査は昭和39年(1964)以降現在までに全て完了しており、二級水系とその周辺についての都道府県による調査と成果の取りまとめが昭和60年(1985)以降続けられている。いずれも現況図の縮尺は5万分の1、農業・工業・水道・発電などの用排水施設、受益地域、保安林などを表示し、各種のデータを中心とする報告書とセットになっている。p.67

主要水系調査成果閲覧システム 農業用水なんかもみられて興味深いが、地形図と流域単位で細分化されているのが欠点か。
国土交通省土地・水資源局国土調査課:調査データを見る

〈土地分類図〉(国土庁
 土地の自然条件を科学的・総合的に把握し、利用の高度化と保全をはかろうとするもので、「国土調査法」による国土調査の一環として、統一的な内容・精度による全国整備が行われている。
 50万分の1(地方別 昭和42-43〈1967-68〉)・20万分の1(県別 昭和42〈1967〉・同43〈1963〉)・5万分の1(おおむね5万分の1地形図単位 全国の利用可能地 昭和32〈1957〉ごろ以降)の三種があり、土地の自然条件を代表するものとしてそれぞれの地域について、「地形分類図」「表層地質図」「土壌図」の三種を基本とし、20万分の1・5万分の1図ではこれを補う何種かの地図を加えたセットで構成される複合的主題図である。20万分の1・5万分の1図の上記3図以外の構成は次のとおりである。ただし、5万分の1の場合、基本の3図以外は、作成主体(県など)必要度に応じた選択がなされるため、構成図にばらつきがある。
  20万分の1 「土地利用現況図」「同可能性分級図」「傾斜区分図」「水系・谷密度図」「表層地質図(垂直的)」「土壌生産力可能性分級図」
  5万分の1 「傾斜区分図」「水系・谷密度図」「土地利用現況図」「防災・保全等規制現況図」「土壌生産力可能性分級図」
 5万分の1図は調査開始当時は「土地分類基本調査」として、経済企画庁のもとで、国土地理院・地質調査所・農業技術研究所(当時)等が調査にあたったが、現在は国土庁の調整のもとで「都道府県土地分類基本調査」として、都道府県が作業にあたっている。
 セットを構成する図の一部には、他の図との重ね合わせによる利用を想定して透明度のあるトレーシングペーパーなどに印刷したものもあって、破損しやすく、保管・保存の上では難物となっている。
 印刷物ではあるが、一般に販売されていないため、図書館などで利用されることが多い資料である。20万分の1の県別図については復刻版が(財)日本地図センターから刊行されている。p.68

20万分の1土地分類基本調査及び土地保全基本調査(熊本県)
5万分の1都道府県土地分類基本調査(熊本) こちらも国交省のもの
土地分類基本調査図:リサーチナビ

国絵図
 官撰の国絵図については、近世日本の地図の基盤としてすでにふれたが、江戸時代の中期以降、それらを縮小・編集し、名所案内などもかねた木版の国絵図が刊行され始めた。
 一枚ものの刊行図が作られたのは全68国中の約半数だが、少数ながら、現代の分県地図のように図帳形式で国土の全域をカバーするものもある(「新刊人国記」関祖衡 元禄14(1701) 4巻 須原屋茂兵衛・「大日本輿地便覧」斎藤謙 天保5(1834)乾坤・「国郡全図」青生東谿 文政11(1828)序 河内屋〔ほか〕など)。
 刊行図としては図帳形式の「日本分形図」(寛文6〈1666〉 中野小右衛門)のほうが、一枚ものの初出と見られる「河内国絵図」(林浄甫撰 宝永6〈1709〉 吉田五郎右衛門彫)より50年近く先行している。増補版など版を重ねるものや、別版など何種類もの絵図を持つ国も多い。
 近世以前の日本では地図帳という形式による出版は上記の分国地図帳に限られ、アトラスの発達した西欧諸国とは著しい対照を見せている。
 一国単位でなく「富士見十三州輿地全図」・「九州九ヶ国之図」のような広域の地方図も作成されている。p.107