今年印象に残った本2016(一般部門)

 読書ノートはやたらつけているけど、雑誌で膨らんでいて、読んだ「本」はかなり減る感じ。チェックしてみると、思った以上に少なかった。
 熊本地震で被災したため、地震関係の本がかなりを占めるように。
 環境とか、生物学で印象に残る本がいろいろあるけど、入れられず。『伊豆の長八』も入れたかったが…

  • 10位 松山利夫・山本紀夫編『木の実の文化誌』

木の実の文化誌 (朝日選書)

木の実の文化誌 (朝日選書)

 人類学者が、世界各地の自分のフィールドで、木の実がどのように利用されているかを紹介する紀行的な本。
 人間が、身近な資源を、いかに深く利用してきたか。乾燥地域では、特に木の実の採集が、人間の生存に重要な役割を果たしてきたと。

  • 9位 梅本弘『第二次大戦の隼のエース』

第二次大戦の隼のエース (オスプレイ軍用機シリーズ)

第二次大戦の隼のエース (オスプレイ軍用機シリーズ)

 軍事・戦史本枠。佐々木春隆本とどっちにするか迷ったが。隼を装備する部隊が、どのように戦ったかを、戦争の全期間を通じて追った本書を。
 時代遅れになっても、格闘戦に強いという強みで生き延びた感が。

  • 8位 丹野顯『「火附盗賊改」の正体:幕府と盗賊の三百年戦争

「火附盗賊改」の正体 (集英社新書)

「火附盗賊改」の正体 (集英社新書)

 今年は江戸の役人関係の新書を何冊か読んだが、これが一番おもしろかったかな。
 江戸の治安を担った「火附盗賊改」を、江戸の始まりから最後まで通観する。最初は、近世の体制にはじかれた人々が群盗化。これを殲滅するべく、幕府軍の先鋒を務める先手頭が群盗と、文字通り戦争を遂行し、殲滅していた。その後、徐々に司法官僚化していく。松平定信時代から、軍事的能力と同時に裁判や行政の能力も要求されるようになっていく。鬼平は、その転換期の存在だったと。

  • 7位 佐藤克文他『野生動物は何を見ているのか:バイオロギング奮闘記』

野生動物は何を見ているのか―バイオロギング奮闘記 (キヤノン財団ライブラリー)

野生動物は何を見ているのか―バイオロギング奮闘記 (キヤノン財団ライブラリー)

 生物・環境系の本は、割と迷ったが本書を。
 動物に小型のセンサーをつけて、直接観測するバイオロギング研究の裏話を主体にした本。水中や空中、森林など、人間が直接観察しにくい場所に生息する生物の活動を観察するのに威力を発揮するバイオロギングだが、生き物にセンサーを取り付けて、それを回収するのが一苦労だと。特に、海だと、どこに行くか分からない。
 YouTubeに動画がアップされていて、それを見ながら本を読めるのもおもしろい試み。直接観察の威力。

  • 6位 佐藤比呂志『巨大地震はなぜ連鎖するのか:活断層と日本列島』

巨大地震はなぜ連鎖するのか 活断層と日本列島 (NHK出版新書)

巨大地震はなぜ連鎖するのか 活断層と日本列島 (NHK出版新書)

 地震本一冊目。
 プレート境界にひずみが溜まり、日本列島に強く圧縮力が働くようになると、それに刺激されて内陸活断層地震が活発化すると言う指摘が興味深い。こういう関連付けはあまり聞かないので印象に残った。

  • 5位 『検証熊本大地震:なぜ倒壊したのか?プロの視点で被害を分析』

検証 熊本大地震 (日経BPムック)

検証 熊本大地震 (日経BPムック)

 日経の建築系雑誌に掲載された熊本地震関係の記事を集成した本。写真や図が豊富で分かりやすい。震度7の連続打撃による建築物の被害状況。阿蘇を中心とした地盤災害や交通インフラの破損。2000年耐震基準でも崩壊した住宅の問題。などなど。
 阿蘇って、土砂災害がおきやすい土地柄だったのだなと、2012年の水害と今回の地震で思い知った。

  • 4位 脇田晴子『中世京都と祇園祭:疫神と都市の生活』

 京都の歴史本を何冊か読んだが、これが一番密度が高い本だったかな。先日亡くなった脇田晴子氏の、割りと古典的な著作。
 中世の京都社会と疫神信仰がどのような関係を取り結んだか。祭礼を執行するための組織や、祭礼のためのリソースをどのように調達したかの仕組み。女性と都市社会。
 疫病を鎮める祭礼が、都市社会の静謐を維持し、政治権力の正統性を示すために、重要な儀式であったこと。そのために、政権がテコ入れし続けた状況。

  • 3位 田中広明『国司の館:古代の地方官人たち』

国司の館―古代の地方官人たち

国司の館―古代の地方官人たち

 歴史関係の本はこれが代表。各地から出土する遺物を比較検討、そこから、国司の拠点が地域経営の拠点となり、地域外からの文物が集積される。そのような、拠点のネットワークを前提として、平将門の乱の地域的文脈を明らかにしていく。

  • 2位 倉地克直『江戸の災害史:徳川日本の経験に学ぶ』

 江戸の社会が、災害の被害に対して、どのように対応していったかを通観する本。時代ごとに主導権を担う階層が変わっていく。「公儀」として幕府が災害対策の主導権を握っていた江戸時代初期から、武士の窮乏化にともなって、民間の富裕層が担う方向に変わっていく。同時に、百姓の側の発言力も大きくなっていく。
 災害対策を鏡とした江戸社会論。

  • 1位 釜井俊孝『埋もれた都の防災学:都市と地盤災害の2000年』

埋もれた都の防災学: 都市と地盤災害の2000年 (学術選書)

埋もれた都の防災学: 都市と地盤災害の2000年 (学術選書)

 関西地方を中心に、人間活動と地盤災害の相互作用を明らかにする本。数百年くらいのサイクルで、地形はかなり変化するんだな。
 京都盆地の都市化にともなって、中世に入ると、東山の植生に対する利用圧が高まる。結果、地すべりなどの地盤災害が頻発するようになる。関西地方の各地で、このように植生への圧力が高まった結果、はげ山化、土壌浸食が進む。それによって供給された土砂は、13世紀以降、河川を天井川化させる。
 土石流災害がたいがいの場合、歴史時代に発生して忘れ去られている。ローマの地質構造と建造物の地震被害の関係。地すべりの発掘事例。比較的最近に掘り返され、埋められた、京都や大阪の窪地。トピックが非常におもしろい。


 以下、次点:
伊豆の長八生誕200年祭実行委員会『伊豆の長八:幕末・明治の空前絶後の鏝絵師』asin:4582544541
内田良『柔道事故』asin:4309246230
川合康『源平合戦の虚像を剥ぐ:治承・寿永内乱史研究』asin:4062580721
久保健一郎戦国大名の兵糧事情』asin:464205815X
仁木宏・山田邦和編著『歴史家の案内する京都』asin:4892597902
京都大学総合博物館編『日本の動物はいつどこからきたのか:動物地理学の挑戦』asin:4000074490
小林丈広他『京都の歴史を歩く』asin:4004315840
ポール・G・フォーコウスキー『微生物が地球をつくった:生命40億年の主人公』asin:4791768922
佐々木春隆『長沙作戦:緒戦の栄光に隠された敗北』asin:4769825447
田中史生『国際交易の古代列島』asin:404703567X
エドワード・シュトルジック『北極大異変』asin:4797673222
土屋健『ザ・パーフェクト:日本初の恐竜全身骨格発掘記:ハドロサウルス発見から進化の謎まで』asin:4416616368
帆足孝治他『残念な旅客機たち:古今東西、ダメ旅客機のオンパレード!』asin:4802202172
川上和人『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』asin:4774155659
森山高至『非常識な建築業界:「どや建築」という病』asin:4334039057