有馬学『日本の歴史23:帝国の昭和」講談社 2002読了

帝国の昭和 (日本の歴史)

帝国の昭和 (日本の歴史)



いろいろと興味深かったのだが、なんというか読みにくかった。正直、どの層を念頭に書いたのか疑問な本。教養書としては、専門的に走りすぎて分かりにくい。このシリーズ全体が、高校教科書レベルではついていけない、けっこう高いレベルだが、本書は特に難しかった。
政治史的な記述は明快で読みやすかったが、思想的な部分になるともう一言説明が足りない印象。
読むのに時間がかかったために、前半部分の印象が多少薄くなりつつあるのだが、興味深く感じたトピックを箇条書き風に。
第一章の政党政治時代の政権交代システムを扱った部分は、明快で面白かった。政権交代のルールが明示されていなかったこと。それによって元老西園寺公望の主観的判断が重要な意味を持ったこと。
中国のナショナリズムについての捉え方が興味深い。

中国のナショナルアイデンティティ1920年代の半ばに大まかな枠組みを与えられた。<反帝>という枠組みである。帝国主義の侵略反対という言説の共有がもたらす、新たな同一性の意識。それこそが<中国>なのである。唱えるのが共産党であろうが国民党であろうが、それは<反帝>という形式で新たに定義されたナショナリズムであった。

このような性格は、昨今の反日デモを目の当たりにすると、しっかり残っているのだなと実感させられる。むしろ、共産主義などの他の理念が衰退して、骨格が剥き出しになりつつあるように思う。また、昭和初年と構図的にも似てきたように思われる。
第五章を読むと、日本の総力戦体制が、紛れもなく国家社会的性格を帯びていることを知る。今まで、なんとなく大戦中の日本を官僚主義的な国家と理解していたので、ここも興味深い。