『渋沢敬三著作集 第一巻』読了

祭魚洞雑録;祭魚洞襍考 (渋沢敬三著作集)

祭魚洞雑録;祭魚洞襍考 (渋沢敬三著作集)


いや、ものすごく長かった。
特に、後半の水産史関係の文章、殊に「式内水産物需給試考」が、一番面白かったと同時に、一番長くかかったし、実際に長かった。
網野善彦が、この人の、式の水産物研究を非常に高く評価していたので、前から一度読んでみたいと思っていたもの。いろいろと興味深かったが、ものすごく苦労した。


この「式内水産物需給試考」は、延喜式に書かれた情報から、朝廷内の淡水魚類の利用と各国からの貢納の状況についてと、同文献に現れる淡水漁業の状況についてまとめたもの。
鯉や鮒の利用が以外に少なく、鮭や鮎が全国から広く集められ、また祭祀や給与で広く使われていたことが明らかにされる。
私自身は究極的には肥後の状況しか興味がない。その肥後については、魚類の貢納についていくつかの情報が出ている。具体的には、前記「式内水産物需給試考」の鮎についての節と、「式内魚名」の貢納魚類の一覧表(531-3ページ)。これを見ると鮎の貢納が多い。意外にも、海産物の貢納は鮫楚割(サメの干し肉)のみで、天草をはじめ海産物も豊かな熊本から海産物が出ていない。「火の君」の根拠地が宇土で非常に海との関係が深そうなのだが、それが式には反映されていないのが不思議である。


前半は、初期に書かれた文章を集めた本が収録されている。
後半ほど興味があるものはなかったが、台湾・沖縄の旅行記(「南島見聞録」)と卒業論文だったという「本邦工業史に関する一考察」が印象に残った。
「南島見聞録」については、西表島に炭鉱があったことが書かれているが、そのようなところで採掘をしていたことに驚いた。また、労働者の非人道的な扱いについても。
「本邦工業史に関する一考察」については、大正時代には、そんなことが問題だったのねという感想と、様々な小規模な職人仕事が取り上げられていることが面白い。現在の目から見れば、このような発展段階論的な分類は、あまり意味がない、特に最初の3つ「家内仕事」「賃仕事」「手工業」については、それぞれを分けることに意味を感じない。問屋制家内工業(本書では「家内工業」という)と「工場制工業」については、ある程度明確な差異があると思うが。