水本邦彦『草山の語る近世』読了

草山の語る近世 (日本史リブレット)

草山の語る近世 (日本史リブレット)


山野と人間の関わりを、近世の草山を題材に追求したもの。
近世には、肥料(草肥)の採取元として草山が重要であり、そのために火入れをして人為的に草原状態を維持する草山が、非常に広く展開していたこと。したがって、当時の山地の景観は、現在と非常に異なっていたことが明らかにされる。


また、肥料採取のための草山は、植生を剥ぎ取られてはげ山になりやすいこと。事実、近畿地方(特に京都府南部)では、はげ山からの土砂流出が激しく、土砂留のため大名や京都・大阪町奉行所を中心に土砂留制度が構築され、盛んに砂防工事が行われたこと。それが肥料不足を引き起こし、金肥(干鰯や油粕)の普及をもたらした可能性について言及している。
この部分では、近畿の事例に偏っていて、全国レベルの情報が少ないのが気になる。熊本でも吉無田の水源林の事例があり、全国規模ではげ山の問題があったはずなのに、近畿の土砂留に集中してしまったのは構成上の少々問題だったのではないか。
千葉徳爾『はげ山の研究』や『日本山林史 保護林篇』あたりにはきっちり載っていて、私の勉強不足なだけという可能性もあるので、ちょっと怖いけど…