肥後の里山ギャラリー「肥後銀行コレクション」展

 最終日に滑り込み観覧。
 タイトルの通り、肥後銀行が持つ絵画の展示。肥後銀行所有22点に、特別展示が1点。熊本にゆかりのある画家の作品、ないしは熊本県内の情景を描いた作品がメイン。かつては、調度的な扱いで入手していたのだろうか。2010年代に入ったあたりから、意識的に地域の作家をコレクションする方向になったのかな。
 近世絵画は、「領内名勝図巻」と関連があると思われる「芦北之図」が展示。前期は「八代之図」だったようだ。


 出品リストの冒頭は、横山大観「磯馴松」。富士銀行の頭取から贈られ、長く頭取室に飾られていたという。それほど大きくない作品で、かつ描かれているのが松三本と鳥影二つとミニマムな表現ながら、構図の緊張感が印象的な作品。背景も、単純に空白なのではなく、薄墨で霧でけぶる情景を表現している。


 最初の目隠しを抜けると、大画面の作品が7点ほどならぶ。中村賢次、佐藤和歌子、堅山南風、真道黎明の諸作品。大作は、それだけで目を引くし、見ていて楽しい。
 中村賢次「再生の炎」は、阿蘇の野焼きを題材とした作品。一辺1メートル以上の画面いっぱいの炎の赤が目に迫る。諸処の焦げた黒や手前の草原の描写が、どういう場面かを知らせる。
 佐藤和歌子作品は三点が展示されていて、なかなか目立っている。それぞれ、「角の門」「フェンリルの鎖」「軛」のタイトルが付されている。西洋の神話にテーマを取ったところといい、女性のデザインといい、ぱっと見は今時のネットで見るイラストと共通している感じだなあと思うが、近づくと、大画面の実物作品というテクスチャー感が印象に残る。前景のカラフルさに対して、沈んだ色、絵の具の質感は実物ならではの存在感。あと、「フェンリルの鎖」の背景の輪っかは、なんなのだろうか。
 服の文様がこれまたおもしろい。鮮明な繰り返し模様ではなく、よく見ると不規則な感じ。日本画材の不透明な絵の具なのかな、どう色を重ねたのだろうというような滲んだ感じの不思議な感じ。
 「軛」は、なんでかミュシャっぽいと感じた。
 堅山南風「日午」は、向日葵モチーフなんだけど、ちょっと沈んだ色なのが印象的。曇りの日のヒマワリというか。テロッと厚く塗られた暗めの緑が。
 真道黎明「肥後椿」は、肥後六花ならではの大きな花心と紅白の花びらが非常に絵になる作品。中央の金箔を背景にして、周りには葉が茂る構図も安心感がある。




 残りは小品。
 一番いいと思ったのは、山口輝也「曙光(江津湖)」。江津湖のほとりの木々が、水面に映っている、静謐な雰囲気の作品。抽象画メインの人だけに、これ、何処までが実景で、何処までが心象風景なんだろうか。背景の平たい山は船野山かな。
 川本末雄「高原地塘」、宇野千里「熊本城不開門」は、具象的な絵画。単純に絵としているなら、こういう風景画・具象画は安心感があるなあ。
 有島生馬「牛深港」、野田健郎「崎津風景」は、ともに港の光景。海の風景というのはいいなあ。前者は、昭和25年ごろに描かれたものだそうだけど、この時期には、まだ機帆船や手こぎ船が多く残っていたのだな。後者は、まさに崎津といった風景。こちらの船はちょっと時代が新しいかな。1970年代頃?
 海老原喜之助「新しい出発」は、見るからに海老原作品という感じだなあ。626水害を契機に、再出発を願っての作品らしい。井手宣通「阿蘇路より有明海の夕映え」はカラフルさが印象的。




 近世絵画は、伝衛藤良行「芦北之図」が展示。前期は、同作者の「八代之図」だったようだ。作者や表装士が同一で、永青文庫の「領内名勝図巻」と関連する作品ではないかと指摘されている。開かれているのは、日奈久馬越町の鳩山と二見下大野町の君ヶ淵の情景。
 最近、近世のこういう実景絵画を見るとき、植生はどうなってるのかなというところに注目しているけど、海岸の緩やかな丘陵は採取圧が強かったようだな。おおよそ草山化しているようだ。それに松がチョロチョロというところか。緑には塗ってあるけど、木が一本一本描いてあるということは、それだけ少ないってことだよなあ。
 むしろ、神社境内や屋敷地内のほうが木が多く立っているのが印象的。