大場四千男『太平洋戦争期日本自動車産業史研究』

太平洋戦争期日本自動車産業史研究

太平洋戦争期日本自動車産業史研究

 返却期限が近いので途中断念。1章と2章の途中まで読了。
 いまいちどういう話がしたいのか良く分からない。話の流れが読みにくい。あと、注の文献表記で出版年と出版社をちゃんと書いていないのがいただけない。
 第1章はノモンハン事件を題材に日本軍の機械化・戦備の脆弱性を明らかにすると書いてあるが、正直微妙。ソ連軍の機械化の進展と、それに対する日本軍の遅れを指摘したいらしいが、どうもうまくいっていない。そもそも、この限定戦争では、ソ連軍は自動車をうまく使いこなせていない印象が強い。そもそも戦車など各種車両を統合したドクトリンが、この時期には、まだ形成されていない。戦車戦力で優越していたソ連軍も、脆弱なBT系列でかなり損害を出している。
 章の前半ではソ連の重工業の発達、後半ではノモンハンの推移と草葉栄の日記からソ連と日本の近代化の差をあぶりだそうとしているようだが、完全に失敗している印象。確かにソ連軍がトラック3000、タンクローリー1000を投入して(p.48)800キロ以上離れたハルハ川の戦場に部隊を維持、最終的には日本軍を圧倒するほど戦力を集結させえたのは、ソ連軍の自動車産業の発展とそれを軍に導入したことの賜物とは言えるが、その部分には全く光が当たっていない。草葉日記を長々と引用するより、ソ連側史料を検討すべきだったのではないか。
 第二章は軍需動員と自動車産業の関係。とりあえず、重要な工業原料・資材のかなりの部分を輸入に依存していたこと、日中戦争にともなう国際関係の悪化の中輸入原料の入手難と軍需生産の拡大という矛盾する命題を満足させる必要があったこと。そのための原料・機械の統制・分配が、豊田自動車、日産などを中心とし、多数の部品メーカーをその下に組み入れる「系列」形成の端緒となったというところまでは分かった。たぶん、そんな流れなのだろう…


引用されていた文献メモ:
安藤良雄『太平洋戦争の経済史的研究』東京大学出版会 1987
田中申一『日本戦争経済史』コンピュータ・エージ
岩崎松義『自動車工業の確立』伊藤書店 1941
東栄二『戦時経済と燃料国策』産業経済学会 1941(2000復刊)
林三郎『関東軍と極東ソ連軍』芙蓉書房 1974
J・B・コーエン『戦時戦後の日本経済』岩波書店 1950
岩崎松義『自動車と部品』自研社 1942
満州国軍刊行会『満州国軍』蘭星社 1970
武田晴人『日本人の経済観念』岩波書店 1989
瀬島龍三大東亜戦争の実想』PHP研究所
近現代史編纂会編『陸軍師団総覧』新人物往来社 2000→『太平洋戦争師団戦史』新人物往来社 1996
佐藤昌一郎『陸軍工廠の研究』八朔社 1999 ISBN:4938571765
昭和産業史』東洋経済新報社 1950
『日本戦争経済の崩壊』日本評論社
『日本自動車産業史』日本自動車工業会 1988
『東燃三十年史』1971
日本石油史』日本石油株式会社編 1958
『日本自動車工業史稿』 1965
『日本自動車工業史座談会記録集』(自動車史料シリーズ)1973
『日本自動車交通事業史』 1953
いすゞ自動車史』1957