山辺規子『ノルマン騎士の地中海興亡史』

ノルマン騎士の地中海興亡史

ノルマン騎士の地中海興亡史

ノルマン騎士の地中海興亡史 (白水uブックス)

ノルマン騎士の地中海興亡史 (白水uブックス)

 先日の書評を見て読みたくなったので、本棚から引っ張り出してきた。歴史関係の本は、10年以上本棚の肥やしになっているような本でも、比較的取り出しやすい所にある。私が持っているのは、最初に出たハードカバー版。
 本書は、もともとは雑誌に連載されたものに加筆修正を行ったものだそうで、それだけに読みやすい。ノルマン人、その中でも下級騎士の家系から国王を輩出するまでになったオートヴィル家の立身出世。そして、そのシチリア王国からノルマン王朝が絶えるまでを叙述する。カオスから、思いもかけない結果が導かれる。大河ドラマのような面白さを味わえる書物。事実は小説より奇なり。
 教皇と皇帝の対立、ランゴバルト系の諸侯の分裂抗争(ヴェネヴェント侯、サレルノ侯、カプア侯への分裂)、イスラムビザンツなどの諸勢力による混乱状態。その中で、傭兵として、あるいは山賊として、ノルマン人が定着、アヴェルサ伯とプーリアのノルマン人グループの2大勢力が形成される。このうち、プーリアグループのリーダーとして頭角を現したのが、オートヴィル家の12人兄弟。最終的には、ロベール・ギスカールが、プーリア、カラブリアシチリアなど南イタリア全域を支配するようになり、ビザンツ帝国を征服するためにギリシアに遠征を行うようになる。一方で、ロベール・ギスカールは征服に終始し、安定的な支配関係を構築するのには失敗する。これに対して、弟のロジェールは兄と対立抗争も交えつつ、カラブリアを抑え、シチリアを征服する。こちらからはシチリア王三代に続く。ただし、シチリア王国そのものは比較的不安定で、それぞれの王は何度か危機に見舞われている。シチリア王国は最終的に直系が絶え、最終的には神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世の支配に服することになる。エピローグは、ロベール・ギスカールの息子で、十字軍で活躍したボエモンドの活動を描く。
 しかし、この時代の戦争で大事なのは自軍の結束を維持し続けることだったように思う。結束を維持し、軍隊が崩壊しない限りは、かなりのピンチもなんとか脱することができる。逆に、大軍を組織しても、内部で崩壊してしまうことも多い。小規模でも、相手が崩壊するまで粘れれば、勝利を得ることができる。このあたりが、古い時代の面白さなのかもしれない。