C.J.S.トンプソン『香料文化誌:香りの謎と魅力』

香料文化誌―香りの謎と魅力

香料文化誌―香りの謎と魅力

 古今東西の香料、特に燻香と化粧品関係に絞って、紹介している。広くまとまって、ぱっと読むには良い本だと思う。ただ、原著の出版が1927年と古いこと、注がなく紹介されている情報の出所が分からないことが価値を落としている。もともとなかったのか、日本語版出版時に落としたのかは定かではないが。あと、中国や日本などの東アジア圏の香料文化については、ほとんど触れられていないのも欠点。まあ、当時のヨーロッパ人だと、西アジア古代文明に比べると情報が入手しにくかったのかもしれない。このあたりは山田憲太郎の諸著作を参照すればいいだろう。
 しかし、香料というのも多種多様で憶えきれない。沈香や没薬、乳香、白檀あたりはまだしも、ヨーロッパでも生産されている各種の花から採取される香料などは。あと、本書では、古代から近世までの香料のレシピが紹介されているが、あれで再現するのは難しそうだなと思った。手順とか分量が欠けているのが多い。ついでに、古代の高価な香料の類は、現在再現しようとすると同様に高いのだろうな。高野山大師堂というお香の店では、天然香料も販売しているが、本書で出てくる香料がいくつか見られる。
 古代から中世のオリエントの香りの文化の豊かさが印象的。古代エジプトに古代メソポタミアイスラム時代に入ってからのアラブ人など。特にアラブは文献が残っているだけに、いろいろと情報が。それと比べると、ヨーロッパの香りの文化は比較的新しい。ルネサンス王政によって、権力の集中が進んでやっとその手の贅沢ができるようになったのだろう。このあたり食事のマナーなんかと同じような感じだな。

 鋭く強烈な匂いのある芳香物質を燃やして出る薫煙は、空気を、そして人体をも清めるという考えは、ひじょうに古い時代に発している。p.133

 古代から、かなり最近のヨーロッパまで。燻すことによる消毒作用や疫病を媒介する生物を駆除する作用はあったんだろうけど。呪術的な感覚も大きく作用しているんだろうな。