デイナ・プリースト、ウィリアム・アーキン『トップシークレット・アメリカ:最高機密に覆われる国家』

トップ・シークレット・アメリカ: 最高機密に覆われる国家

トップ・シークレット・アメリカ: 最高機密に覆われる国家

 ものすごく時間がかかったな。一ヶ月以上かかっているのは確か。興味深いと同時に、読んでいて気分が暗くなる本。
 これ、アメリカ合衆国って終わってないか。肥大化したインテリジェンス・コミュニティを縮小するのは難しそうだし、下手に追い込むと政治的混乱の元になりそう。あと、ちょこちょこと匂わされているが、こうやって蓄積された情報は今度は国民に向けて使われるのだろうな。
 前半は、インテリジェンス・コミュニティ肥大化の経緯。911のショックの中で、精査もままならないスピードで予算が請求され、認められていった状況。機密の壁に阻まれて、全体像を把握できる人間が存在しない惨状。さらには、急拡大の影響で、情報を分析する専門職の養成が間に合わず、またベテランの分析官は高給で民間企業に引き抜かれ、情報分析の質が低下している状況。実際、巨大なオフィスビルが次々と建てられているんだから、使える金の巨大さは推し量ることができるよなあ。
 ブッシュ政権で肥大化した情報機関はオバマ政権にも引き継がれ、縮小に有効な手が打たれていないこと。さらには、様々な業務が、その効果をチェックもされないまま漫然と続けられている状況。あと、業務の重複ぶりもひどい。いや、複数の情報源は必要だよなとか言うレベルじゃなくて、似たような業務をやっている機関が30とか、40とか言うんだから、どうしようもない。しかも、官僚の縄張り争いで、縮小もままならないと。民間委託が、また高くつくと。
 後半は各論。すべての情報を集約しようとするアメリカ北方軍や機密を扱う人々にフォーカスした章、対テロビジネス、無人機など。11章の統合特殊作戦コマンドが怖いな。なんとなく好意的な書きぶりなんだが、「効率的」に海外で諜報・暗殺作戦を実行する組織とか、活動の標的がどこを向くか分からない分こわいわ。しかも、実際は諜報活動をやっているにもかかわらず、外部からのチェックが利かないシステムになっている。たしかに、マクリスタル大将によって効率的に運用されるようになった統合特殊作戦コマンドが、国内の官僚主義的な情報組織と一線を画しているのは確かだけど。外部からチェックを受けない巨大化した特殊作戦部隊ってのはな。で、統合特殊作戦コマンドがイラク、アフガン、イエメンなどの国々で暗殺作戦を実行しまくっているわけで。
 最後は、トップシークレットで秘密を拡大しているが、ネット上でガンガン情報が流出しまくっている状況。機密の増殖が、「民主主義」に与える悪影響の懸念など。
 しかし、911直前には、機密の壁に阻まれて、オサマ・ビンラディンのことを知っている人間が少なくなっていったというのは、もう情報機関のだめさ加減を象徴しているな。


 以下、メモ:

 2001年9月11日のあの事件以来、たくさんの機密情報が当局の許可なくさまざまな人によって暴露されてきたが、軍や情報機関のいくつかのソースによれば、そのためにわが国の安全保障が深刻な打撃を受けたことは一度もなかったという。むしろ、政府が国民の目に見えないところで隠れて行動し、納税者のカネが意味のないプログラムや、国の安全にたいして貢献もしていない請け負い業者たちにジャブジャブと与えられつづけたことのほうが、テロを防ぐ努力に対しても、わが国の経済や戦略的な目標に対しても、もっとずっと大きな損害を与えているのだ。わが国の憲法は、私たちのような部外者がそのような問題点を指摘することを認め、メディアに大きな保護を与えている。p.9

 日本にとっては、本当に、情報機関の肥大化は害悪だよなあ。中国の軍事力拡大の動きに対して、米軍の正面戦力は弱体化を続けているわけで。「同盟国」の動揺も当然というか。

 本書の目的は、こういったすべてのことに対する対案を示すことである。それは「より高い透明性と、活発な討論こそ、わが国をテロやその他の危険から守る唯一の方法である」ということだ。テロリズムとは、たんなる無差別攻撃のことではない。テロリズムとはその名が示すように、人々の心のなかにパラノイアと強い恐怖心や不安感を起こさせることなのだ。また、経済を混乱させたり政府の取締りの強化を招くこともテロは狙っている。p.12-3

 何度も繰り返されているが、機密でがんじがらめにされ、国力を消耗させていっている現状は、テロリスト大勝利って感じだよなあ。

 それからわずか1年後の2002年、イラク攻撃準備のための軍需物資の増産・備蓄が始まり、さらに膨大な額の予算が請求されて承認された。新たな支出の大部分は、すでに数十億ドルの規模があったインテリジェンス・コミュニティーのさまざまな情報機関や軍のさまざまな組織の予算に追加され、新たに作られたGWOT(Global War On Terrorism「テロに対する世界規模の戦争」の略。「ジーワット」と発音する)と呼ばれるカテゴリーで総称される機密化された予算に組み入れられた。それまでにアメリカはすでにアフガニスタンで戦争を始めていたことから、GWOT予算が増えることに異議を唱えることができた議員はほとんどいなかった。前出のリリーはこう言っている。
「GWOT予算はあまりに膨大で、歳出委員会が詳細をチェックすることは不可能だった。大きくなりすぎて予算審議のシステムが機能しなくなったのだ。なにしろ予算案を一つ通すやいなや、すぐまた次の補正の請求がくるのだから、審議している時間などあるわけがない」
 洪水のように押し寄せる予算案の審議をさらに難しくしたのは、そのほとんどが公開できないものだったことだ。対テロ作戦や国土安全保障がからむ予算は日常的に機密指定され、誰にもわからない領域となって外部の目には見えなくなってしまった。この状態は今でも変わっていない。p.18-9

 機密指定で分断して飽和攻撃か。そりゃ、予算審議が機能しなくなるわけだ。で、安全保障関係の予算はブラックボックス化ね。なんか中国とたいして変わらない感じになってきたな。

 CIAの秘密収容所がどこにあるのかを調べていた私に情報をリークしてくれた人たちにも、さまざまな理由があった。「この秘密プログラムはとんでもない誤りだ」と思っている局員も何人かいた。その作戦は、ホワイトハウスが許可を与えて積極的に後押ししていたが、「もしこのことがおおやけになったら、悪者にされるのはオレたちだ」と言った人もいた。人間が関わっている以上、いくら会社や個人の名を偽名にしたり、ニセの住所を使ったりしても、あれほど大きな作戦を何度も繰り返していることを永久に秘密にしておくのは不可能だ。CIAの高官たちは、はじめからそのことを知っておくべきだったのだ。p.55

 知っている人間が多いほど機密は漏れやすくなる、ってのはここでも真だったと。

 オバマが大統領に就任するまでに、オサマ・ビン・ラーディンの名を知らないアメリカ人はほとんどいなくなっていたが、9・11テロの前にその名を知っていた一般人はほとんどいなかった。政府内部ですら、ブッシュが当選した大統領選が行われた2000年秋までにアル・カイダの脅威は日に日に大きくなっていたにもかかわらず、ビン・ラーディンの動向を知らされていた安全保障関係者の数は日に日に少なくなっていたのだ。この奇妙で理屈に合わない現象は、少なくとも2年続いた。
 なぜそんなことになったのか? その理由は“機密”である。情報機関はお互いに対してあまりに多くの秘密を持ちすぎ。政府は国民に対してあまりに多くの秘密を持ちすぎた。
 情報機関は、ビン・ラーディンやアル・カイダの情報が得られれば得られるほど、それを自分たちだけの秘密としてしまいこんだ。彼らはその情報をほかの情報機関に伝えず、機密指定することで一般国民の目から遠ざけた。その結果、一般国民はテロの脅威をほとんど知らず、政府に問題を解決するように求める動きも生れなかった。p.68

 だめじゃん、情報機関…

「国家地球空間情報局」は、9・11テロの後にアメリカの情報機関が急速に拡大したことを示すとくによい例だ。もともとワシントン一帯の6ヵ所ほどの施設に入っていたが、手狭になったため、急遽ヴァージニア州スプリングフィールドに18億ドルをかけて新しい本部を建設した。新本部ビルはワシントン一帯で4番目に大きな政府のビルとなり、8500名の職員が勤務している。p.96

 こんな規模のビルが山ほど建っているんだから、どれだけ金を突っ込んでいるのか分かろうってもの。予算青天井ってやつだな。

 調査を続けるにつれ、このボルチモア一帯に集まっている「トップシークレット・アメリカ」の拠点は、全米に十数ヵ所ある同様の拠点のなかでも最大規模であることがわかってきた。そのことを知っている人はほとんどいないが、アメリカ政府もそうであることを望んでいる。車でNSA本部に近づくと、急にカーナビが利かなくなる。どの道を行ってもUターンするように表示されるのだ。敷地に近づく者は、スパイも一般人も区別しないということだ。p.102

 世界各国の通信傍受で悪名の高いアメリカ国家安全保障局本部の話。カーナビが全部Uターンするように表示するって怖すぎるな。

 こういった事情により、今日では2001年9月以前に比べて全体ではおそらく2倍の分析官がいるにもかかわらず、その多くは同じ情報を回しあっている以上のことはほとんどできていないと言っていい。つまり彼らは、すでに出来上がって提出されているレポート以上のものを作りだす専門知識や能力がない。おかげで、価値の低い分析や内容が重複するレポートが、現場の司令官や政策決定者に洪水のように押し寄せてくる。p.116

 組織の急拡大に、分析官の養成が間に合わず、価値の低い情報があふれるようになったと。で、政府全体がノイズの海に溺れている。

 多くのフュージョンセンターが同じ仕事をしていることの問題点は、たんに大金がドブに流されているというだけではない。時として重複は任務の障害となることもある。そのよい例が、2009年にテキサス州の陸軍基地で起きた、ニダル・マリク・ハッサンという名のアラブ系アメリカ人大尉(精神科の軍医)による乱射事件だ。13人を射殺し数十人を負傷させたとされるハッサンは、その少し前から過激思想に影響されて危険な兆候を見せていたにもかかわらず、ヒュージョンセンターも陸軍の情報部も見ているだけで何も行動していなかった。事件ののちに私が入手した資料によれば、ハッサンは以前、米軍内部でイスラム教徒の兵士が孤立していることをずっと説いており、戦場で混乱を避けるため彼らをアフガニスタンなどの戦地に派遣しないよう主張していた。その後、彼がイエメンの過激派宣教師とメールを交換して過激思想に取り憑かれていったことをFBIの対テロ班がつかんでいたが、その情報は、陸軍内にいるスパイや危険人物の発見を任務とするアメリカ最大の防諜部隊である陸軍第902情報隊に伝わっていなかった。p.127

 なんか、これなら何もしないほうがマシなレベルだよなあ…

 そういう仕事中毒人間を何万人も集めて、総計何十億ドルもの契約やサラリーを与え、彼らが仕事をするために最新のオフィスビルが立ち並ぶビジネスパークを作ればどうなるだろうか。アメリカで最も裕福かつ教育水準が高い郡のトップ10のうち、六つまでが「トップシークレット・アメリカ」の拠点がある郡なのも驚くにあたらない。昨今の不況にもかかわらず、それらの郡や市は全米で最も失業率が低く、不動産の価値が最も高い地域である。p.201

 なんか、国を食いつぶす勢いだな。結局、現在のアメリカは官需依存国家と。