『明治の細密工芸:驚異の超絶技巧!』

 明治時代に、海外輸出を目的として制作された細密な工芸品の数々を紹介するムック。なんか、読むのにやたらと時間がかかったのは、本の重量が微妙にかさんだせいだろうか。
 七宝、自在置物、漆芸、印籠、染織、金工、陶磁器、細密彫刻、根付、竹工・木工に分けて、紹介する。後半は、主要な作家の紹介。アールヌーヴォー以前にヨーロッパで評価された、非常に細かいところまで作りこんだ、超絶技巧の数々。根付とか、人間業じゃねーな。一方で、やり過ぎて、56ページの「菊貼付香炉」とか、気持ち悪いレベルに。
 とりあえず、印籠と根付に心惹かれるな。印籠の装飾って、いったん作った後、切るのか。
 明治の工芸を理解するためのガイダンスとして、冒頭の「近代工芸の幕開け」が非常に参考になる。単純に需要に応じて生産されたというモノではなく、ヨーロッパの価値意識で選別され、さらに政府に近い人々によって政策的に育成された「産業」であること。そのためのツールとなったのが、内国勧業博覧会日本美術協会、皇室の買い上げであると。
 また、ラストでは、別の、国家的な選別から外れた明治の工芸として「生き人形」が採り上げられる。熊本出身者が中心人物で、現代美術館で積極的に研究がなされている分野。見世物という場のために作られた工芸品で、「生きているように見せる」が主眼だった。このような生き人形・見世物って場は、先日読んだ『伊豆の長八』の鏝絵とつながるな。そして、長八が、枠さえも、木や竹に見せかけた漆喰細工であったが、似たような見せ掛けとして、本書で紹介されている蒔絵師、柴田是真の漆絵もまた、枠まで漆絵でそっくりに細工している姿とつながる。こういう、細工で本物を見まがうものを作る伝統で、「美術」の評価からもれた分野もつながると。