蒲生俊敬『日本海:その深層で起こっていること』

 日本海の概説本。
 対馬海峡などの出入り口が浅いため、海水が出入りしにくい。対馬海流が流れ込むことで、日本海沿岸は温暖な気候となり、また、漁業資源が豊富になること。塩分密度が高い暖流の海水が、ウラジオストク沖でシベリア高気圧の北西季節風で冷やされ、表層水の沈み込みがあること。また、北西季節風によって、日本海側に大量の降雪がもたらされ、それが日本列島の水資源を支えていることなどが紹介される。
 日本海は、「ミニ大洋」として、独自の熱塩循環を行っていることが特筆される。ウラジオストク沖で沈み込んだ表層水が、日本海の深層に広がって、均一な「日本海固有水」を形成する。この熱塩循環によって、海底に酸素が供給され、底生生物が生存できる。大西洋から、インド洋、太平洋をつなげて、グローバルな熱塩循環が2000年程度のスケールで起こっているが、日本海はその1/10くらいの時間スケールで熱塩循環が起きていること。このようなミニ大洋であることから、グローバルな気候の変動のさきがけとなり、何が起きるかを見極める試金石になりうるという。
 このような、熱塩循環は、日本海の歴史を通じて存在したわけではない。2000万年から1400万年前にかけて、日本列島が大陸から離れる過程で、形成されたこと。氷河期の海水準低下期には、対馬海峡が狭まり、対馬暖流の供給が絶たれる。そうなると、熱塩循環が機能しなくなり、海底は貧酸素状態で、酸素呼吸の生物が生存できなくなる。海底のボーリング調査から、酸素が豊富な状態と貧酸素状態の時期が交互に起こり、それが、氷河期・間氷期と一致することなどが紹介される。黒海の現在の環境がそのような状況で、貧酸素で多細胞生物がほとんど存在しない、死の海となっている。そのような状況が日本海でも起きていたという。直近では、2万年前ほど前。最終氷期の頂点の時期がその状態であった。徐々に海水準が上昇し、それとともに、海底に酸素が供給され、それとともに北太平洋から底生生物が侵入したという。日本海底の生物相の歴史は、比較的短いと。
 ラストは、現在の地球温暖化日本海の関係。北西季節風が弱まり、日本海の熱塩循環が止まりつつある。底層の酸素濃度は、30年で10%低下と、かなりの低下を見せている。特別寒い年だけ、深層に表層の酸素の豊富な海水が供給され、平年では底まで届かなくなっている状況。このような、日本海の変調は、将来的に日本列島の水資源供給が減少し、植生などにも影響を与える可能性を示唆している。今年の関東の水不足が、「雪」が少なかったからというのが、示唆的だな。水資源の供給が細る。あと、酸素の量が減っていくと、ズワイガニがどうなるんだろうなとか。


 本書は、日本海の概説として、よくできていると思うが、参考文献のところで頭を抱えることに。桜井よしことか、ハンチントンあたりで、あちゃー感が。5章は、おおよそ、添え物程度といった評価に。