遠田晋次『連鎖する大地震』

連鎖する大地震 (岩波科学ライブラリー)

連鎖する大地震 (岩波科学ライブラリー)

 巨大地震が起きると、それが周辺の地殻に、どのように影響を与え、どのように地震が誘発するかを紹介する本。巨大地震で、地殻が大きく動くと、それにともなって応力のかかり方が変わる。それによって、地震のパターンも変動する。事前予測は難しいけど、事後の説明はできるとか。正直、よくわからないところが多数。


 第1章は東日本大震災による「クーロン応力変化」の話。応力の二つのパターン。震災後、東日本で地震発生のパターンががらりと変わっているのには、驚く他ない。まあ、日本列島の東半分が、数十メートルの単位で動いていればなと。今までかかっていた圧縮力が、一気に消えたわけだし。
 第2章は、地震の階層構造の話。巨大地震から微小地震まで、関連性があると。グーテンベルク・リヒター則や大森公式、断層のトレンチ調査による繰り返しモデルなど、ある程度の予測ができる方法論があると。しかし、グーテンベルク・リヒター則は、その地域の一番大きい地震に関しては、バラツキが大きくて、あてにならなさそう。大きな地震があったときに、震度○の余震に注意とアナウンスされるのは、GR則や大森公式から導き出されているのか。大地震が起こるには数十万・数百万年かけて成長した断層が必要で、小さな地震が同じだけ起きても、代わりにならない。そして、巨大地震が起きてしまえば、歪みが解消されて、静穏期が訪れると。
 第3章は断層が集まった場所としての日本列島。変動帯である日本列島に安定した場所はなく、どこでも断層が存在すると。まあ、トレンチ調査でそろそろ地震が来そうなタイミングという断層は、待ったなしで準備しておくべしというのは、熊本地震でよくわかった。しかし、同じ場所で二度も三度も喰らうわけではないから、経験の蓄積も難しいという。
 第4章は今後の見通し。M9規模の地震が発生すると、余効変動とよばれる緩やかな変動が続く。これは、他の地域の巨大地震の研究成果からすると、数十年単位で続く変動で、結果として周辺の地殻への影響は長期的に続くと。海洋地殻で起きるアウターライズ地震、沈み込んだ地殻のスラブが破断するスラブ内地震、内陸誘発地震などが起こりうると。スラブ内地震に関しては、何年か前にやたらと深いところで地震があったのが、ソレなのかな。
 第5章は首都圏の話。プレートの破片が関東の地下に存在する関東フラグメント仮説。しかし、首都の真下でプレート境界地震が発生するって、他の国ではどれだけあるんだろうな。危なすぎ。


 以下、メモ:

 しかし、この地震体積の相似形、これが東北地方の最大地震を予測する妨げになりました。二〇〇四年にインドネシアで発生したスマトラ沖地震はM9.1。東北沖地震はM9.0でマグニチュードのスケールでは0.1しか変わりません。相似形を考慮すると、震源断層の長さはほぼ同じと想像してしまいます。しかし、スマトラ沖地震は長さ1000キロメートル超、東北沖地震はその半分以下でした(図10)。ただ、東北沖地震は、ずれの量がスマトラ沖地震の倍以上だったので、ほぼ同じマグニチュードとなったわけです。両方の地震地震体積で表すと、体積はほぼ同じながら形が大きく異なります。今となっては残念なことですが、「M9の超巨大地震を引き起こすためには、断層の長さが1000キロメートル程度は必要」という先入観を地震学者の多くが持っていました。そのため、「万一日本でM9が起こるようであれば、東海・東南海・南海・日向灘・南西諸島が連動する場合だけだ」と主張する地震学者もいました。まさか、東北沖のこれほど狭い範囲で五〇メートルもの大きなずれが起こるとは誰も考えていませんでした。地震のスケール則、相似則という「常識」にとらわれたためでした。p.29

 起こってみないとわからないことが多いと。

 地震発生層の内部では、最下部付近、すなわち深さ一〇〜二〇キロメートルで断層の強度が最大になります。深いほど地表からの岩石の加重圧(封圧)が大きくなるためです。強度最大ということは歪みのエネルギーを最も溜めている深さでもあります。一度断層運動が起こると破壊(ずれ)は強度の高い部分から低い部分に簡単に拡大します。しかし逆の場合は、破壊が止まることが多くなります。すなわち、浅いところから断層が動いても深い部分までずれが広がることは少ないのですが、深さ一〇〜二〇キロメートルから断層のずれが始まって浅い部分に伝播することは簡単です。したがって、内陸直下型の大地震震源の深さ、すなわち断層が動き始める深さは、通常一〇〜二〇キロメートルになります。p.56

 なるほど。しかし、場合によっては、ごく浅いところから始まって、深いところも破断することもありうるんだよな。

 では、発生から約五〇年経過したアラスカ地震(一九六四年、M9.2)やチリ地震(一九六〇年、M9.5)はどうでしょうか。アラスカ自身は太平洋プレートが北アメリカプレートに沈み込む地域で発生した地震です。震源断層の大きさは長さ八〇〇キロメートル、幅二五〇キロメートルもの巨大なものでした。ずれの量も平均一〇メートル以上だったと推定されています。東北地方太平洋沖地震と同じく、地震の際は海岸線が最大二〇メートルも海側に大きく移動しました。もちろん、巨大地震前はプレートどうしが固着していたと考えられ、東北と同じく陸側にゆっくりと地面が移動していたわけです。しかし、一九九三年から実施されているGPS観測では、いまだに海岸地域が海側にわずかに移動していると報告されています。また、地震時に沈降した島々や半島がその後隆起に転じているのは、余効すべりや下部地殻・上部マントルの粘弾性効果によると指摘されています。五〇年近くたった現在でもまだ超巨大地震の影響が残っているようです。p.73-4

 何十年も残る影響。凄まじい。