土屋健『ザ・パーフェクト:日本初の恐竜全身骨格発掘記:ハドロサウルス発見から進化の謎まで』

 タイトルが長い。
 北海道むかわ町で発見されたハドロサウルス科の恐竜の全身骨格の発見から発掘までを描いたドキュメント。発掘の過程や関係者へのインタビューだけではなく、古生物学的な関連情報や著者が大学時代にこの地域で研究やっていた話なども入っていて興味深い。むかわ町には、白亜系の海成層が発達し、アンモナイトやイノセラムスが多産する。また、クビナガリュウの骨格や複数の種のモササウルス類、大型のカメの化石も発見されている。「恐竜」に含まれないこういう大型爬虫類の化石って、かえって情報がないよなあ。恐竜に関しては、一般向けの本が出版されていたりするけど。
 海成層から、ここまで状態の良い化石が発掘されたというのが興味深いな。比較的短時間に、他の生物に食い荒らされずに、海中に沈んで、堆積物に覆われた。どういう経緯だったのだろうか。歯が外れて飛び散っているから、ある程度の時間がたって、沈んだはずだが。尾椎と頭骨、大腿骨が出ているのだから、当然、骨盤も出てくるだろうし、クリーニングの進展が楽しみな骨格。ノジュールの中だから、削りだすのは大変そうだけど。大体、頭骨が欠けていることが多いから、ほんと、頭骨が出てきた意義は大きいよなあ。尻尾の先とか、足先は欠けているかもしれないが。
 この骨格発掘によって、白亜紀最末期のハドロサウルス科恐竜の生物地理が明らかになると。ハドロサウルス科恐竜が多数発掘される北アメリカとモンゴルの中間地域がどうなっていたか、ハドロサウルス科の拡散の過程が明らかになる。あるいは、モンゴルの地層の編年は、明らかになっていないので、モンゴル産のハドロサウルス科と同種であれば、時代同定に貢献すると。こうして見ると、海成層で、アンモナイトによって精密に編年が行われているというのが、生きてくるのだな。
 かかわった人々の反応もおもしろいな。やはり、化石で町おこしと考えると、恐竜の化石が欲しいと。それに対して、クビナガリュウが専門の人は、違ったとがっかりとか。発掘に従事した学生の話とか。垂直に埋まっていて、しかも、母岩と骨の見分けがつきにくいとか、相当難しい発掘だったらしい。復元画の話も興味深いな。3Dで、コピペしながらできるって、少数派だと思うけど。
 現場の写真が、思いっきり崖の中腹で怖い。二年目はルートが整備されて、だいぶ楽になったらしいが。


 以下、メモ:

 ただし最優先で共有される情報は、化石に関するものではない。クマに関する情報である。
 人里離れて山の中を歩き回る北海道のフィールドで、最も警戒すべきはヒグマの存在だ。p.33-4

 真っ先に共有されるのがヒグマの情報か。ヒグマって、そんなに怖いんだ。九州って、クマがいないから、ピンと来ない。むしろ、マムシが怖い。

 「立体的に複雑に」とか「くちゃくちゃにまとめた」と形容したけれども、実はこの形には規則性があり、数式で表現できることが明らかになっている。すなわち、一見、奇天烈に見えても、この形は理にかなっているのだ。p.41

 異常巻アンモナイトの話。しかし、どういう生態だったのだろうか。泳ぐのは得意そうではないけど…

 2013年に発掘を開始することを目標に、櫻井は関係各所と稲里化石の手続きを進めていった。北海道胆振振興局森林室からは、「林道斜面の改修」の許可を取った。ただし、「改修」という作業には、発掘のための樹木の伐採と、発掘が完了してからの植林という作業も含まれていた。p.163

 なんか、めんどくさい話だな。確かに、前例のない話を持ち込まれたほうは、困惑しただろうけど。「改修」が一番使いやすい名目だったと。

 ……とはいえ、恐竜化石がまったく出ない、とは思っていませんでした。カナダでも海でできた地層から恐竜化石がいくつかみつかっていますから。ちなみに、カナダの海の地層からみつかる恐竜化石はハドロサウルス科の恐竜が多く、幼体が多く、全身骨格が多いことが特徴です。
 したがって北海道からも、いつか同じように良質な恐竜化石が出るだろうとは思っていました。実際に、ニッポノサウルスもみつかっていますからね。p.280

 へえ。ハドロサウルス科は、流されて、保存状態がよい状態で沈む特性でもあったのかね。不思議な話だ。