水野良『グランクレスト戦記6:システィナの解放者[下]』

 システィナ解放編。
 恐怖で分断され、さらに混沌渦で逃げ場を失って、疲弊していたシスティナ。テオとシルーカは、いわば檻となっている混沌渦を払い、それによって人々を動かそうとする。巨大な混沌の魔物を、苦戦の末に倒し、システィナを魔境から解放。それによって、一気に、民衆はテオの元にはせ参じる。
 こういう人々を閉じ込める障壁が失われた途端、体制が崩壊するってのは、旧共産圏の崩壊時を思い起こさせるな。一気に、人が逃げる。北朝鮮なんかも、それが恐れられているわけで。


 一気に、テオの軍勢が膨れ上がる中、ロッシーニ家側は、逆転をかけて、ペデリコの長男ドーニを指揮官とする軍勢を派遣。しかし、最終的に、テオとの一騎打ちに負けて、ロッシーニ家の体制は崩壊。
 ロッシーニ家の自分でも望まない圧政。ジュード・コルネーロが、人気取りのために無策に魔境に挑んだ扇動家でしかなかった。ゆえに、ロッシーニが反逆した経緯。そして、統治するものとしての最後の誇り。単純に、ロッシーニが悪者ではなかったことも示される。とはいえ、圧政の責任は誰かがとらなければならないわけだが。
 ペデリコの次男、ジュゼルは、生き延びて、テオに協力してシスティナの政治的安定に協力することになる。


 戦後処理といっても、ここまで荒れ果てた国を立て直すのは難しそうだ。そして、アルトゥークでは、ミルザーが、残った君主たちによる遊撃戦に対して、領民を巻き込んだ徹底弾圧の方針を採ることを決意。オイゲン・ニクラエ男爵以下の、アルトゥーク残党は死を覚悟した正面決戦によって、壊滅する。まあ、この種のゲリラ戦って、それに巻き込まれた時点で負けなんだよなあ。暴力的弾圧の汚名は、拭い難い。


 しかし、魔女ヤーナの末路がなんとも。なにやら、魔法師協会が黒幕のような空気だが。なら、そのエージェントたるアイシェラは、どう動くのだろうか。最後の方で、ヤーナの牢に現れた謎の女性はアイシェラのようだが。そして、ヤーナのテオとシルーカを殺してくれという願いに「今はまだ、ね……」と答えたということは、どこかの時点で、アイシェラが暗殺者として牙を剥くのだろうか。