上橋菜穂子『精霊の守り人』偕成社 1996 ISBN:4035401501

ひさしぶりにファンタジーらしいファンタジーを読んだ。私は、変な言い方だが、「指輪物語と似た匂いがするもの」をファンタジーに求めている。本書はその香りを十分に持ち、私はそれを存分に楽しんだ。
アボリジニを思わせる先住民ヤクーたちの伝承、生活、習俗。ヨゴの都の人々。これらの丁寧な描写が、読むものに確固とした世界・その世界の匂いを感じさせる。また、チャグムに産み付けられたニャンガ・ロ・イム(水の守り人)の卵を探っていく、登場人物たちの模索も面白かった。著者がアボリジニを研究する文化人類学者だけに、習俗や世界観の描写は説得力があった。
主人公バルサやチャグム、タンダたちの心の動きの描写は少し弱かったように思う。皇子から一転、追われる身になり、最後は兄の死によって皇太子になるチャグムの自身の運命に対する憤り、チャグムを守るうちに人生の目標を見つめなおすバルサとそれを見守るタンダの気持ちの描写は、うまく言えないがもう一味足りない気がする。むしろ、キャラ立ちしまくってた意地悪ばあさんこと、トロガイ師に食われてしまってた感じである。
物語の筋立ては模範的とは言いがたいようだが、それを気にせず最後まで一気に読ませる楽しい作品であった。