山岡淳一郎『マンション崩壊:あなたの街が廃墟になる日』日経BP

マンション崩壊 ?あなたの街が廃墟になる日

マンション崩壊 ?あなたの街が廃墟になる日


前著の『あなたのマンションが廃墟になる日』が面白かったので読んでみた。
良い建物を長く使うというスタンスは非常に納得できるもので、かつ、公共事業や建築の歴史、コミュニティ、街作りなど、マンションにとどまらず広い範囲を目配りした視点が非常に面白い。
第1、2章が八王子市のベルコリーヌ南大沢の公団マンションの欠陥問題、第3章がニュータウンの開発全般、第4章が国立市の景観問題、第5章が中部地方日系ブラジル人問題を導入に郊外とコミュニティの問題を扱っている。
全編興味深い問題がちりばめられていて、全体をまとめるのは少々難しいので、今回は何箇所か引用のみ。

「じつは、どの官庁でもそうなのだが、キャリア官僚は上司から「現場に行くな」と教育されている。人間くさい感情が渦巻いている現場に出向くと、情に引きずられ、行政マンとしての大局的判断が下せなくなる、というのがその理由である。超然とした立場を保持するための言い訳に聞こえるが、現場を知らないことが、一層、縦割りの狭い法解釈によるタコツボ的発想へと官僚自身を追い込む。
 欠陥集合住宅の現場には、建築技術の問題だけではなく、コミュニティが抱えざるをえない多様な課題が山積している。「建物とコミュニティ」は分けられない。高齢者の医療、福祉から子供の教育、労働、行政サービス……多岐にわたる難題が輻輳している。そこを知らなければ、むしろ全人的な判断は下せないのだ。縦割りの法解釈よりも、現場で暮らす人々の「生活の幅」の方がはるかに広く、深い。日本の官僚組織は、その認識が薄く、総合的な判断を下すのが極めて遅い。
 例えば、八〇年代末、米国が、自動車や繊維といった個別分野ではなく、日本の土地制度や商習慣など社会構造に手を突っ込んで市場開放を迫った「日米構造協議」。正確には米国が「主導権」を一方的に行使した協議で、これを端緒に日本政府は莫大な公共投資を約束させられ、現在に至る財政赤字への雪だるまが転がり始めるのだが、米国はその初手で日本の官僚機構の縦割り、現場感覚のなさを突いた。日本の外務官僚は、産業別の条件闘争ではなく、いきなり土地制度や重層的な下請けの仕組みを議題に持ち出され、慌てふためいた。
 相手は日本人の生活を丸ごと標的にそ、経済政策の主導権を奪いにきたのである。国民生活の基盤になっている土地や商売の仕組みに疎い外務官僚は「これは敗戦後に次ぐ第二の占領政策だ」と青ざめるが時すでに遅し。バブル崩壊を経て、日本は赤字漬けとなった」(p.93)

「そのころ、財政赤字貿易赤字、いわゆる「双子の赤字」に苦しみ、「小さな政府」を志向していたレーガン共和党政権は、対日貿易赤字の元凶は日本の閉鎖的な金融市場がもたらす「円安」と断定。米国財務省は、84年に設置された「日米円ドル委員会」を通して中曽根自民党政権に国際ディーリングの解禁、外国金融機関の金融資本市場への参入などの「市場開放圧力」を加えた。背景には国際経済のボーダーレス化による米国、欧州、東アジアの「金融三極構造」の実現が横たわっている。
併せて米国は自国の財政赤字は対外不均衡によるものだとして日本に「内需拡大」で景気浮揚を、と大号令をかけた。「金融市場の開放」と「内需拡大」という大風が海の向こうから吹きつけた。
 米国の財政赤字は膨大な軍事費と減税が原因との見方が強かったのだが……
(中略)
 この「日米円ドル委員会」が先鞭をつけた、日本の「仕組み」にまで手を突っ込んで米国流に変える従属化策は「日米構造協議」を経て、90年代に入ると、さらに米国の強いイニシアチブ(主導権)のもと、「年次改革要望書」によって規制緩和構造改革メニューが突きつけられる。小泉構造改革の主題とされた郵政公社の民営化策が「年次改革要望書」の提言とそっくりなのは偶然ではない。
 次のターゲットは国民皆保険が支える「医療制度」の解体である」(p.172-3)

おおよそ中曽根首相の時代の話。
この部分が正しいとするならば、外交的な失策(アメリカへの従属化)による財政赤字の拡大によって、日本は少子化などの社会変動に対応する資源を失ったことになる。

「センターの運営費用は外国人200世帯(総外国人世帯800)からの月々1000円の会費と、出店反対運動をはね返して団地にオープンしたブラジル食品専門店や民間財団、旅行代理店などの寄付で賄っている。行政援助はゼロだった。トヨタに支援を頼みに行ったら「我々は世界を相手に事業を展開している。地元だからと特段の配慮はできない。その分、法人税を払っているので豊田市を通じて間接的に支援したい」との返答。自治体と大企業の谷間でごく少数のボランティアだけが外国人の支援を続けている」(p.248)

さすが世界のトヨタ
しかも、アメリカでは寄付したりしているんだよな、きっと。