直江ヒロト『夏海紗音と不思議な世界1』

 普通に海洋冒険小説でした、本当にありがとうございました。
 主人公が、ヒロイン紗音の「指向性万有引力」で並行世界に引き込まれ、謎の島虚島を探索に行く話。しかし、見事にナポレオン時代あたりの海洋小説的世界(ホーンブロワーみたいな)になっている。サックリと読めて、悪くはない出来だと思う。
 しかし、何箇所か欠点が。構成としては、第5章あたりが、なんか中だるみ状態というか、話全体の中で、機能していないのが気になった。あとは、世界観についてか。気候変動と戦争でかなり違う世界になった。帆船が幅を利かせているというのは、なかなか面白いアイデア。だが、いまいち、個々のガジェットが馴染んでいない感じがする。帆船が30ノット出すのは無理だろうとか、駆逐艦というのは魚雷の存在が前提なのだがとか、そのあたり。あと、砲が前装砲になっているのはやりすぎな気も。帆船にスターリングエンジンなんか積んでいるんだから、砲も後装砲でも良いような気がする。
 最後は主人公が元の世界に帰還して別れ別れになるが。ここはスッキリとして良いと思う。タイトルに「1」なんて番号が付いているから、また主人公が引き寄せられるというような展開もあるのだろうか。