小倉欣一・大澤武男『都市フランクフルトの歴史:カール大帝から1200年』

都市フランクフルトの歴史―カール大帝から1200年 (中公新書)

都市フランクフルトの歴史―カール大帝から1200年 (中公新書)

 中公新書祭り2冊目。
 ライン川中流域の有力都市フランクフルト・アム・マインの形成から現在まで。ライン川の経済空間とか、中近世の流通なんてやっている人間には親しい都市ではあるが、確かに知名度では微妙に劣りそうである。マイナーメジャーのメジャーより? 中公新書には、そのレベルのヨーロッパ都市の本が結構あるな。ぱっと思いつくだけで、本書に、シエナブリュージュストラスブールと。
 前半は中世史家の小倉欣一の担当。8世紀に記録中に出現し、カロリング朝の王宮都市として発展。その後も、神聖ローマ帝国の皇帝選挙・戴冠の地として重要な地位を保つ。また、中世半ば以降、大市都市としても栄え、重要な経済交流拠点となり、また金融都市としての端緒にもなる。ブックフェアについて。ユダヤ人の活動とそのフランクフルト史における重要性。本書では、宗教改革の影響が比較的軽微だったように見える。そのあたりは興味深い。
 後半は大澤武男担当。ゲーテロスチャイルドの出身地としてのフランクフルト。ドイツ統一の過程でのフランクフルトの歴史。プロイセン支配下に入ってから自由都市の枠を外しての発展。金融都市として、そしてユダヤ人が活躍する都市であることが強調される。逆に、それによってヒトラーとナチには「ユダヤ人都市」として嫌われ、冷遇される。そして、大戦による破壊と復興、冷戦後の動き。本書の出版は1994年なのだが、それと比べてもヨーロッパはいろいろ変ったなと。この時点では、まだユーロも導入されていないかった時代だし。
 しかし、本書のラストの方で紹介されるフランクフルトのイメージが面白い。「フランクフルトは埃くさい、ごみごみした商人の町」と呼ばれるそうだ。あと、ドイツで一番犯罪の多い「犯罪の首都」だそうで。なんか日本でいえば大阪のような扱いなのだろうか。ヨーロッパ中央銀行が来たり、今なお繁栄が弥増しつつあるようではあるが。欧州統合によってライン川地域の諸都市は、どこも元気になっているな。一番の受益者なのだろう。