「建築アーカイブ巡り東大でシンポ:資料脅かす市場経済」『朝日新聞』10/3/28

 「日本は発展途上国だから、あなたたちを助けるために略奪してあげる、と言われてしまう」。山名善之・東京理科大准教授の”物騒な”発言が飛び出したのは、東京・本郷の東京大で先月開かれたシンポジウム「建築アーカイヴの現在と未来」だった。
 「略奪」の対象は、建築の図面や模型などの資料。それらを集めて保存する建築アーカイブが近年、注目されている。司会を務めた、建築家で東京大教授の隈研吾さんによれば、理由は、「美術との距離が縮まり、図面や模型も美術品同様に保管する価値があると見なされ始めた」「グローバル資本主義の中で値段がつくようになった」「デジタル技術で、新しいタイプの資料が登場し始めた」という三つだという。
(中略)
 やりとりを受ける形で、フロアから飛び出したのが、冒頭の山名さんの発言だ。「ヨーロッパに行くと、君たちには国レベルの建築博物館やアーカイブがない、と指摘される。建築展には多くの人が足を運ぶのに」。日本の現代建築は国際的に評価が高いだけに、隈さんも「海外流出も現実的な問題になっている」と話した。
(後略)

 いや、まあ仕方がないんじゃない?としか思わなくなった今日この頃。大阪の例を始めとして、最近の史料保存に関する動きを見ていると、ヘタに日本においておくよりも、外国に流した方が安心ですらある。まして、「建築アーカイブ」に関しては、まだ必要性に対する認識も高まっていないしな。資料群で保存すべきものは、日本においておくべきではないとすら思う。
 そもそも、こういう資料をアーカイビングするリソースも、これから先は減っていく一方だろうし。大学は衰退、国の財政も衰退、建築業界も衰退とくれば、誰も音頭は取らないわな。


 他には、建築資料の「市場化」や、アーカイブが「現代の建築家にもインスピレーションを与えている」という、実用性の議論など。

 隈さんはシンポ終了後、「国の力で、博物館はすぐにはできないかもしれないが、大学や学会をネットワーク化して、全体として総合的なアーカイブ機能を持たせる方法が、今の時代にはあっているのだろう」と話していた。

 問題は収蔵スペースなんじゃないかな。大学も、淘汰されるものが出てくるだろうし、どちらにしろ新規の収蔵施設を準備できるような大学は限られている。