ヴィトルト・リプチンスキ『ねじとねじ回し:この千年で最高の発明をめぐる物語』

ねじとねじ回し-この千年で最高の発明をめぐる物語

ねじとねじ回し-この千年で最高の発明をめぐる物語

 この千年で最高の道具というエッセイのオファーから、ねじ回しの歴史の探求へとつながる。読みやすく、楽しい本。ねじ回しと物を固定するためのネジというのは、だいたい15世紀あたりに考案されたようだ。その後、ネジ切り旋盤やネジの精度の話などは、モズレーやマーク・ブルネルなど、近代の技術史ではおなじみの面々が出てくる。このあたりは、ロルトの『工作機械の歴史』と並べて読むと興味深いだろう。
 固定のための用具としてのネジは比較的新しいが、ネジの原理そのものは古代から利用されている。アルキメデスやヘロンといった古代の数学者による、螺旋を利用した道具が紹介される。圧搾機や水揚げネジなど。それがどこまで広がったのかというのを考えるのもおもしろいのではなかろうか。古典古代の学芸を引き継いだ中東、イスラム圏ではどうだったのか。なぜ、そちらではネジというものが発展しなかったのか。中国や東アジアにはネジの原理を利用した装置・道具は伝播しなかった。それはなぜか。日本にネジの原理が入ってくるのは、16世紀の鉄砲伝来。このあたりの技術的情報の伝播というのもおもしろい。
 そもそも、本書でもネジの起源をたどるのに、様々な著作や現物の断片的情報をつなぎ合わせている。その点では、このようなモノづくりの技術の歴史の追求というのは、実際に遺物が残っていない限りは、かなり難しいものだと感じる。