- 作者: 河田惠昭
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/12/18
- メディア: 新書
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しかし、本書での予測がいちいち、東北大震災で再現されているというのが、専門家のすごさだな。
地震の揺れは小さくても、1分以上揺れている場合は津波地震の危険性がある。この津波特性は現状では正確に計算できないので、津波常襲地帯では、ともかく避難しなければならない。p.65
これは頭に入れておくべき知識。
この本の出版は、2010年2月27日に発生したチリ沖地震津波がきっかけとなっている。わが国では、約168万人に達する住民を対象に、避難指示・避難勧告が出されたが、実際に避難した人は3.8パーセントの約6.4万人に過ぎなかった。とくに、津波常襲地帯の北海道、青森、岩手、宮城、三重、和歌山、徳島、高知の各県の沿岸市町村でも、対象人口約74万人中、5.1パーセントの約3.8万人が避難したに過ぎない。このように極めて低い避難率であった。近年の津波災害では、住民の避難率が大変低いことはすでに問題となっていた。しかも、年々これが低くなっているのである。
「こんなことではとんでもないことになる」というのが長年、津波防災・減災を研究してきた私の正直な感想であり、一気に危機感を募らせてしまった。沿岸の住民がすぐに避難しなければ、近い将来確実に起こると予想されている、東海・東南海・南海地震津波や三陸津波の来襲に際して、万を超える犠牲者が発生しかねない、という心配である。政府の中央防災会議が推定した津波による犠牲者数は、対象住民の避難率を1983年日本海中部地震津波や1993年北海道南西沖地震と同じと仮定して求めている。もし今回のように多くの住民が避難しなければ、犠牲者はとんでもない数字に膨れ上がるのは確実である。それでなくても日本列島の周辺では、津波発生の危険が至る所に存在している。また、太平洋の遥か彼方、今回のように1万7000キロメートルも向こうのチリからも来襲する。そして、なぜそのような遠距離を減衰もせずに津波がやってくるのかとか、どれくらいの破壊力があるのかについての知見はよく知られていない。はしがきp.1-2
今回については、逃げた先の避難所がやられている事例も多いからなあ。逃げ遅れた人も結構いるようだが。
もし、津波と一緒に砂浜を引きずられたとしよう。その場合、水の中であるのに、あなたは大やけどをする可能性がある。なぜなら、砂浜はあたかも「濡れたサンドペーパー」のようになるからである。その上で身体をこすりつけるように運ばれるからやけどするのである。1998年のパプアニューギニアの地震津波災害の調査を実施したとき、私はこのことに気がついた。負傷者が運ばれてきた病院では、骨折よりも圧倒的にやけどを負った住民が多かったのである。p.4
水流の力を如実に示す。
これらの沿岸では数多くの漁港が点在している。そして、この沿岸域では、津波の高さは5メートルを超え、場所によっては10メートルに達する。地震の際には漁業関係者は漁港に駆けつけてはいけない。命を落とすだけである。南海地震や東南海地震による津波から、漁船や養殖いかだを守ることは不可能と断言できる。p.90-1
熊野灘、紀伊水道沿岸の話。まあ、そうなんだろうな。津波保険でもかけるしかないのだろうか。
津波発生の経験則
一般に海底に震源があり、二枚のプレートが上下に食い違うという縦ずれ断層地震(逆断層あるいは正断層地震)の場合に津波は起こる。しかし、小さな地震では起こらない。過去にわが国で被害を起こした近地津波のうち、地震マグニチュードと震源深さがわかっているものは約130例ある。その中で最大の震源深さは100キロメートル、最小の地震マグニチュードは6.1である。
すなわち、地震マグニチュードが6.0以下あるいは震源の深さが100キロメートルより深ければ、被害をもたらすような津波は発生しないと考えてよいようである。サンプル数も100を超えているから、信頼してよい数字であるといえる。これが津波発生の経験則である。たとえ、地震マグニチュードが八と巨大であっても、震源の深さが100キロメートルより深い場合、海底地盤に顕著な上下の食い違いは発生しないのである。
テレビを見ていると、画面上に、つぎのようなテロップが流れることがある。「△△付近で地震がありました。この地震による津波の恐れはありません」。このとき、なぜ、津波が発生しないかについて理由の説明はない。『なぜ』という理由が示されないので、視聴者は少しも賢くならない。同じ地震マグニチュードであっても震源の深さが浅い方が、一般に津波は大きくなる。このような事実を知っていることは、防災・減災に役立つはずである。p.99-100