田中彰『深海ザメを追え』

深海ザメを追え

深海ザメを追え

 サメについて、いろいろと解説した本。半分くらいがサメの特色についていろいろ、残りの半分が著者の研究人生、生態系の中のサメや保全の話といった配分。
 サメ類は482種ほどいて、半数が大陸棚や外洋の表層に生息し、半分が大陸棚の斜面など深海に生息しているとか、ホホジロザメが体温を高くする代わりに大型の獲物を狙う戦略とか、卵生から胎生までいろいろな生殖方法の種がいるとか。ホホジロザメのアザラシやオットセイを襲うってのが怖いな。人間なんかひとたまりもない。
 あとは、サンプルの処理や生物につける装置の小型化とか。
 高次捕食者が生態系に与える影響の問題。特にエイなどを食べる捕食者がサメだけなので、サメの減少は環境に与える影響が大きいかもしれないという。また、深海の生物だけに資源量から分からないというのが、保全の障害になっているとか。
 分からないことが多いんだな。
 さくさくと読める楽しい本だった。


 以下、メモ:

 僕は大学院で長崎に行ったけれども、市場に行くと本当にいろんな魚が揚がっていた。長崎は底曳網の基地だったのでたくさん底魚が水揚げされる。底魚というのはいろんな種類が混じって捕れるので、なんとか利用して食料資源にしようと、そういうものを練り製品にする文化がずっとあった。今でもサメが捕れれば無駄にせず湯引きにして食べる。そういう文化も残っている。長崎に限らず、昔は地域ごとに練り製品の材料が違い味も違うということがあった。けれども今は、効率化を考えて使いやすい材料で作るということになって、ほとんど画一化されてしまって個性がないし、大量には捕れない魚、いろんなサイズが混じって捕れる魚などは使われなくなって、捨てられることが多くなっている。残念なことだ。p.79

 こういう地域性を商売にできればいいんだけどな。

 関連があるのかどうか分からないが、日本近海にはかつてウバザメがたくさんいて、肝臓が肝油の原料となるので盛んに捕られていた。例えば三重県の波切という漁村では、1960年代-70年代の前半ぐらいまで、“突きん棒”という銛で刺す漁法でウバザメを専門的に捕っていたほどだ。ところがそれが、ある時期からほとんど捕れなくなった。メガマウスが捕れるようになったのはちょうどその後なのだ。ウバザメもメガマウスプランクトン・フィーダーなので、何か関連性があるのかもしれない。例えば、以前はウバザメがこの辺のプランクトンをバカスカ食べていて、メガマウスはあんまり寄って来ることができなかったのかもしれない。そんなことをかんがえるのもまた面白い。p.86-7

 漁獲圧で、種類の交替が起きた可能性があると。