岡部いさく『クルマが先か? ヒコーキが先か? Mk.5』

クルマが先か?ヒコーキが先か?〈Mk.5〉

クルマが先か?ヒコーキが先か?〈Mk.5〉

 シリーズ五巻目にして、最終巻。雑誌廃刊で、連載も終了か。飛行機と自動車のつながりに焦点を当てたコラムは独自性があっておもしろかった。マイナーなスポーツカーとか、こういうのがあったのかという感じで。
 第16章は、航空機自動車問わず、スピードに挑んだ人々。第17章はマイナーなメーカーのお話。意外な会社が、意外な事業に手を出しているな。最後の18章は自動車と飛行機が共通するいろいろ。


 最初はスピード狂のお話。初期には自動車の方が早くて、飛行機と自動車のスピード対決が行なわれていた。戦後、公道レースが難しくなった時期に、かのルメイが戦略空軍の空港をレース場に提供したエピソード。レーサーとして活躍し、第一次世界大戦ではアメリカ軍のトップエースであったリッケンバッカーと彼が経営した会社。自動車メーカーから、イースタン航空に。イースタン航空を大手に育て上げた功労者か。アメリカとイギリスのコンヴェア社。アメリカのは航空機メーカーとして有名だけど、後者はボディの製造から始めた小規模な企業で、小型のスポーツカーを生産。商才のある人たちだったっぽいな。
あるいは、スピードに全振りで、安定性を欠いた飛行機ジービーとその製作者グランヴィルのお話。レース機の製作から、スポーツカーの設計まで手を出していた。とりあえず、あまり深く考えない系の人だったっぽい。
 ビル・サドラーのエピソードもおもしろい。ミサイル技術者から、レースカーの設計・生産に転じ、1954年から61年にかけて、何種類かを製作。エンジン直結のフォーミュラカーとか、ギア前進一段とか、男らしすぎるだろ。スポンサーが下りたあとは、航空業界に転じ、航空機の電気系統のエンジニアから、自家用機のディーラー、そして、1982年には航空機の生産に転じている。サドラーが製作したヴァンパイア、かわいくていいな。
Sadler Vampire - Wikipedia, the free encyclopedia


 続いては、飛行機や自動車に関わったマイナーなメーカーのお話。
 とりあえず、驚いたのは、リバティシップで有名なヘンリー・J・カイザーが、自動車産業や航空機産業への参入を目指していたという話。どちらも、結局はものにならなかったわけだが。自動車の生産は、技術力だけではなくて、大量の車両を廉価に作らなければならないというあたりに、難しさがあるな。最初に大規模に投資する必要があるだけに、ハードルが高い。結局、ビッグ3の壁は高かった。
 あるいはイタリアの航空機メーカーであったピアッジオ社が、戦後、軍用機の生産の見込みがないことから、スクーターを生産。それが、ヴェスパとして大当たり。同じ会社だったのか。まあ、航空機メーカーとしてのピアッジオは、戦時中には四発重爆のP.108を少数。戦後は軽飛行機や練習機を細々と作っていたメーカーなわけだけど。しかし、同社のP.180アヴァンティ先尾翼式、プロペラの推進式のビジネス機って、すごいな。
ピアッジョ P.180 アヴァンティ - Wikipedia
 オースチン・ヒーレーにつながるドナルド・ヒーレーの活動。インヴェクタなどいくつものスポーツカーメーカーをつくっては潰し、フェアマイル高速艇で爵位を得たノエル・マックリン。現在も続くカロッツェリアを作ったザガート。3つの自動車ブランドと飛行機、現在も続く航空機エンジンのライカミング社などを傘下にしたコード・コーポレーションなど。
オースチン・ヒーレー - Wikipedia
ザガート - Wikipedia


 ラストは、自動車と飛行機の兄弟愛(?)の話。
 自動車輸送の専用機なんてのがあったんだ。ブリストル170フレイターやアヴィエーション・トレイダース・カーヴェア。自動車輸送専用機は、今は残っていないと。逆に、自動車は飛行機の支援に用いられていると。第2次世界大戦時の航空機輸送用のトレーラー「クイーン・メリー」ってすごいな。
 あるいは、自動車のエンジンで飛行機を飛ばす話。飛行機に搭載するには、いろいろと不便があると。特に冷却系が余計な重荷になると。
ブリストル フレイター - Wikipedia こういう飛行機大好き。


 ラストは、動物の名前を付けられた飛行機や自動車の列挙。意外とあるというか、ないというか。