『ミリタリー・クラシックス』Vol.61

 感想の順番が前後して、バックナンバーをば。この号は、第一特集が日本重巡洋艦「利根」級、第二特集が第一次世界大戦の英菱形戦車。


 前者、第一特集は、「航空巡洋艦」の異名を取る利根と筑摩。個人的に、大好きな船。確か、一番最初に買った重巡のプラモが利根だったような。昔は、ウォーターラインシリーズの重巡が500円だったんだよなあ。コレクションしていた。あと、中二心的にも、「航空巡洋艦」というのがはまる。しかも、他の航空巡洋艦や航空戦艦が活躍の場を得なかったのに対し、南雲機動部隊の目として、輝かしい武勲をたてているわけで。
 条約型巡洋艦の円熟期だけに、優良な性能を持つ船だったが、欠点がないわけではなく砲弾の散布界が大きいとか、水中防御が航空爆弾の至近弾にも絶えられないほどの弱さだったなどがあったという。
 しかし、戦歴を見ると、利根と筑摩の差が大きいなあ。レイテ沖海戦を生き抜いて、呉空襲で力尽きた利根と、何度も損傷を受け、レイテ沖海戦で戦没、生存者一人の筑摩の差が。ほんと、被害担当艦と幸運艦に分かれるよなあ。


 後者、第二特集は、最初の戦車。第一次世界大戦で活躍?した菱形戦車Mk.1からMk.5までの軌跡。なんというか、期待された割に、それほど活躍していないようにも見えるけど。ドイツ軍は、戦車なしで大突破を果たしているしなあ。なんとなく、ぱっとしない感じが。まあ、塹壕と機関銃の鉄火場に突撃していく歩兵にとっては、心強いだろうけど。
 基本的には、飛行機や既存の軍需品への割り当てが優先され、隙間を突くように、資材の調達が行われた。装甲用の鋼板は、海軍が装甲車用に確保していた資材。エンジンは砲兵用のディムラー105馬力エンジンからアップグレードされない。主砲も、海軍で需要がなくなった速射6ポンド砲。アメリカのホルト・トラクターにありものを組み合わせた車両だった。
 そして、戦争に間に合わせるために量産が急がれ、生産の阻害要因になりそうな「改良」は避けられた結果、車両を操縦するのに4人必要な不合理、エンジンのパワー不足とそれに伴う重量増加の不可能、小銃弾ですら場所によっては貫通する弱体な防御力、それらを振り捨てて実戦投入された。いろいろとアレな兵器だったけど、とにかく戦争に大量投入はできた。「間に合った兵器」である、と。戦略爆撃機とか、結局、戦争に間に合っていない兵器はいくらでもあったわけだしな。
 また、旋回砲塔は、特にエポックメーキングなものではなく、最初から構想にはあった。しかし、とにかく泥濘の塹壕戦に特化したものとして、菱形戦車は作られ、砲塔は諦められた。割り切りの兵器なわけだ。
 ソンム戦で実戦投入された戦車は、その後試行錯誤しながら戦術が研究されていく。一方で、ドイツ軍側の戦車対策も急速に進み、菱形戦車の超壕能力を超える幅の広い対戦車壕が掘られるようになったり。旧式化した77ミリ砲を対戦車砲に転用してアウトレンジするなど、あっという間に戦車単独の突破は不可能になった。なんというか、第二次世界大戦のシーソーゲームの原型がこの時代に起きていたのだな…


 連載・コラムでは、「特殊作戦行動」、「WW1兵器名鑑」、「知られざるイタリア将兵録」、「この一艦」、「蒼天録」あたりが印象に残る。


 白石光「特殊作戦行動 54」は、二式大艇による真珠湾再爆撃作戦のK作戦について。途中、潜水艦による給油を受けての、長駆攻撃行動。しかし、投入された二機、しかも、スコールの中の盲目爆撃では、効果は限られていた。すごいんだけど、ある意味日本軍の攻撃優先思考が現れているなあとも…


 すずきあきら「「WW1兵器名鑑」は、アバークロンビー級モニター。余った戦艦用砲塔を流用した、対地攻撃用浮砲台。水面下のバルジがものすごく太くて、「脱いだらすごいんです」感はあるなあ。機関に高級品を使わなくてもいい分、リーズナブルな船なんだろうけど。


 吉川和篤「知られざるイタリア将兵録:Vol.22:東洋に渡った聖なる獅子」は、天津のイタリア租界に配備された海軍歩兵大隊「サン・マルコ」の話。300名強の部隊が租界を警備。第二次世界大戦の勃発で東洋に孤立、さらに、イタリア降伏で日本軍の捕虜になった兵士とファシスト側として天津に残った兵士に分かれ、戦後、米軍の艦船で帰国したという。


 松田孝弘「この一艦」は、防護巡洋艦高千穂を取り上げる。最新鋭巡洋艦として日清戦争で活躍した高千穂も、第一次世界大戦の頃には立派な旧式艦になっていた。第一次大戦では、青島の封鎖に投入。独小型駆逐艦S-90の雷撃によって撃沈される。補給用の魚雷を積んでいて、それが誘爆。被害を大きくした。生存者3名って、轟沈だな。魚雷が誘爆で沈没というと、特設巡洋艦報国丸を思い起こさせる。
 しかし、「敵との交戦で最初に戦没した艦」って、なんか、すごく微妙感が…


 野原茂「蒼天録」は、日本に輸入されたBf109Eと、同じエンジンDB601Aを積んだ試作液冷エンジン戦闘機キ60のお話。エンジン出力の差で鍾馗に負けたのか。で、試作で中止。その経験が飛燕に活かされた。
 E型といえど、エンジン出力は意外に小さくて、スピードも遅いのだな。