『ミリタリー・クラシックス』Vol.68

 特集は紫電改アメリカM3中戦車。


 第一特集は、大戦末期の日本海軍で唯一、米軍機と互角に戦えると輿望を担った局地戦闘機紫電改
 とりあえず、艦載機のF6FやF4Uあたりと互角に戦える海軍で唯一の戦闘機であった。昭和15・16年あたりに戦闘機の試作が行われなかったのが痛い感じだなあ。結局、戦争が始まってから計画された戦闘機はモノになっていない。昭和14年試作の雷電昭和15年に水上戦闘機として試作された強風のバリエーションが、まとまって投入された単座戦闘機の最後だったわけか。それも、爆撃を受けて生産予定に遠く及ばない機数だった。水戦改造の応急局戦が、他を押しのけて重点生産機種に下克上というサクセスストーリーだなあ。
 紫電の段階、紫電改の段階と、強風からかなりの改設計をうけている。
 しかしまあ、先祖たる紫電の惨憺たる有様が。カタログスペックは有望だったけど、主脚が弱い、飛行特性が悪いと、1000機以上作られたのに、有効な戦力にならなかった。ひでえ。
 あとは、敵手としてのムスタング。1500馬力級エンジンで最高時速700キロ超を叩き出してくるチートっぷりが印象に残る。
 紫電改部隊で著名な343空のデビュー戦、とりあえず、主力艦に撃沈がないあたり、防空戦に成功しているのかねえ。米軍戦闘機は、343空の倍くらい居たみたいだから、地上からの補助を受けたとは言え、互角に戦ったのは立派な戦績なんじゃなかろうか。
 基本的に数的劣位の中で戦っているから、一方的にやられないだけでも、すごいんじゃなかろうか。
 あとは、B-29やPBMといった大戦後期の大型機撃墜の難しさとか。


 第二特集は、米軍の中戦車M3リー/グラント。
 75ミリ砲を車体にケースメイト式に備え、その上に37ミリ戦車砲を乗っけた旋回砲塔が載る不思議なデザインの戦車。本格的な75ミリ主砲搭載戦車の生産が難しかったアメリカが、そのギャップを埋めるための苦肉の策が、変な形で魅力的な戦車を生み出した。
 フランス崩壊の後、慌てて数を揃えるために、専用工場とともに企画された戦車。
 とりあえず、ありモノを組み合わせて作っただけに、旧式な部分と新しい部分が入り交じった戦車となった。リベット組の車体は、被弾時にリベットが飛び散るといった欠点があったが、そのまま生産が続けられた。溶接車体や鋳造車体といった防御力の向上したサブタイプも生産されたが、製造設備がM4シャーマンようにまるごと転用されて、数が少なかった。
 1930年代のアメリカには戦車に使えるエンジンがなくて、航空機用の空冷星形エンジンが利用された。しかし、回転数が上下する戦車にはあまり向いていなくて、エンジンの寿命が短くなりがちだった。また、生産量が増産に追いつかず、ディーゼルエンジンを連結したデュアル・ディーゼルやバス用のガソリンエンジンを5基組み合わせたマルチバンクエンジンなどが投入されている。
 あとは、意外と高性能な37ミリ砲とか、熟成はしているが、信地旋回ができないなど機動性で劣る繰向装置など。エンジンと武装の都合で大きくなった車体は、使う方にはそれなりに好評だった。あるいは、上層部には悩みの種だったやたらと多い乗員も、乗る側には、作業の人手が多いということで好評だったとか。
 イギリスのM3に対する評価もおもしろいなあ。旧式ドクトリンで設計されたM3なにもかも気に入らなかった。しかし、大量生産の都合から、専用砲塔を確保するにとどまった。それも、工数削減で要求が通らないポイントが多かったとか。しかし、使ってみると、75ミリ砲の榴弾が、独88ミリ高射砲に対抗する武器になったり、高い車体が視界確保に役立ったり、やっぱり車内の広さが好評だったり。
 つーか、M3って、武装取っ払ったら、普通に装甲兵員輸送車になりそうだよなあ。


 「M3中戦車の部隊編成と運用」が興味深い。燃料補給が運用の足枷になった。54両の戦車大隊を動かすには、毎日キロリットル単位の燃料補給が必要で、上級部隊からその手当てを受ける必要があった。機動戦を行う部隊が師団単位にまとめられるのはそのため。また、歩兵師団も大量の車両を抱え、それなりの燃料補給能力を持っていたが、それでも大隊レベルが限界で、派遣されるGHQ戦車大隊の規模が決まった。
 また、燃料補給が二系統になってしまうことから、ディーゼルエンジンの戦車が嫌われた。燃費が良くなっても、戦車偏重の機甲師団では、耐えられず。歩兵師団ではさらに補給能力が限られる。結果として、アメリカの戦車はガソリンエンジンメインだった、と。


 以下、コラム・連載。
 白石光「世界の軍用銃 in WWⅡ」
 今回のお題は、トンプソン・サブマシンガン。個人的には、大好きな銃。M1928のほうが好きかなあ。


 すずきあきら「WWⅠ兵器名鑑」は、イタリアの戦闘飛行艇がお題。某赤い豚を思い起こさせるw
 もともと、オーストリアハンガリーのローナーL飛行艇をコピーしたのが、マッキ社の飛行艇の始まり。そこから、改良を重ねていった。戦闘飛行艇として活躍したM.5。あるいは、戦間期に広く各国に輸出されたM.7シリーズは多様な派生型を生み出した。


 吉川和篤「知られざるイタリア将兵録」は、上とつながる感じで第一次世界大戦イタリア軍エースの紹介。イタリア軍は、主にフランス製戦闘機を運用。マッキM.5のトップエース、オラツィオ・ピエロッツィ、イタリア軍2位のエースシルビオスカローニ、髑髏マークのルッフォ・ディ・カラブリアが紹介される。ラストのカラブリアは、敵戦線後方に不時着した後、後部に積んでいた自転車で脱出、味方前線に帰還する冒険活劇を演じているとか。


 松田孝宏「この一艦」は、イタリア戦艦ジュリオ・チェザーレがテーマ。1914年竣工のド級戦艦は、改装を受けて第二次世界大戦でも主力艦として活躍。戦後は、ソ連に引き渡されノヴォローシスクと改名。1955年に爆発事故で沈没。数奇な運命をたどった。


 野原茂「蒼天録」は、アメリカから輸入されたセバスキー戦闘機。長距離護衛戦闘機として使いたかった日本海軍だったが、やっぱり復座戦闘機は使い物にならなかった。偵察機に転用しようと考えたが、こちらも改造が必要で、諦められてしまった。


 歴史的兵器小解説は、シュコダ10センチM.14榴弾砲、フランスの敷設巡洋艦エミール・ベルタン、ドルニエDoプファイル。M.14シリーズ、最後は面変わりしすぎじゃね。あとは、実戦に投入されず仕舞いの串形双発の戦闘機。