西川和子『スペインレコンキスタ時代の王たち:中世800年の国盗り物語』

 タイトルのごとく、スペインのレコンキスタの通史。国王の動向を中心に、スッキリと読みやすくまとめられている本。しかし、サンチョとガルシアとアルフォンソ多すぎ。
 アストゥリアス王国レオン王国あたり、いつの間にかなくなっている王国がいくつもあるけど、どちらも発展的解消といった感じなのかな。アストゥリアス王国が、レオンに遷都してレオン王国に。で、レオン王国は分家筋というか、兄弟国のカスティーリャに統合されて、名前を省略されるように。ナバラ王国レコンキスタ後に、アラゴンに飲み込まれる、と。
 だいたい、レオン、カスティーリャナバラアラゴンポルトガルあたりの王族は、互いに婚姻を交わしあって、従兄弟くらいの間柄の事例が多い。家格が釣り合うのが、そのくらいしかなかったということなのだろうな。フランスとは、伝統的にあんまり関係が良くなかったようだし。で、王が幼いとか、意欲がない王とかで、求心力がなくなると、周囲の王族が干渉してくることになる。11世紀前半には、ナバラが優位だったのが、一気に凋落したり。国王の力量で国が動く時代には、運不運で一気に物事が動いたりするのだな。
 13世紀初頭のラス・ナバス・デ・トロサの戦いに至るまで、後ウマイヤ朝のアブド・アッラフマーン3世やアル・マンスール、ムラービト朝ムワッヒド朝あたりが派遣してきた軍勢相手に、野戦で負けまくっているのも印象深い。それでも、拠点を維持できていれば生き延びられる。あとは、校納金目当てで、どちらも徹底的に潰さない距離感とか。


 本書は、キリスト教国家の国王の動向という観点から、ストーリーが構築されているけど、けっこう人の行き来が多かったみたいだし、フラットに同じ文化圏の人々が生きている世界として描いたらどうなるんだろうな。特にタイファ国時代とか。
 ナバラ王の娘オネカが後ウマイヤ朝のカリフあぶど・アッラーフと結婚して、その孫アブド・アッラフマーン3世もカリフ位に就いていたりするが、彼、彼女たちは何語で意思疎通をしていたんだろうか。


 あとは、派閥争いをしていたり、反乱を起こして、宮殿の呼び集められて殺されたり脅されたりといったエピソードが目立つ貴族たちの勢力基盤とか、生態みたいなところも興味を惹かれる。それぞれ、かなり勝手に動いているということは、自律的な土地支配が行えていたということ。それがどのように変容していったのか。


 しかし、しょっぱなのムスリム軍の侵入に対して、内輪もめであっさり崩壊する西ゴート王国がアレだな。選挙王制で二系統の王家が対立、一方がムスリム勢力を引き込む。逆に言えば、ローマ世界において、イスラム教徒は異物ではなかった。支配されても、貴族も一般人も違和感を感じない、文化的に地続きな感覚だったのだろうか。
 そして、王家に近い人物がカンタブリア山脈とその北の人々を糾合して、アストゥリアス王国を結成。ホントに北辺の山岳民だけが、ムスリム勢力に組織されなかったというのが正確なところみたいだなあ。アンダルシアなどの地中海沿岸地域が核であろうムスリム勢も、本腰入れて制圧する程ではなかった。しかし、そこからじわじわと広がって、最終的にはキリスト教国家に埋め尽くされることに。とはいえ、800年のうちの400年くらいは拮抗していた感じだよなあ。
 アストゥリアス王国の領域の平地の少なさが印象深い。


 後ウマイヤ朝が消滅する11世紀前半まで、領土が広がっているように見えるが、本格的に戦えば、むしろ負けていた。イスラム教徒側は、それぞれの都市を核とするタイファ国群に分裂。その中で、イベリア半島の中央部で防波堤の役割を果たしていたトレド国の内紛に乗じて、トレドを占拠するカスティーリャ。しかし、それは北アフリカムラービト朝を呼び込むことになる。野戦で負けに負け、バレンシアなど各地が奪還されるが、トレドは守り切り、その後の南部征服の足がかりになる。


 ムワッヒド朝との戦いも興味深い。アルフォンソ8世は、アンダルシアに攻撃をしかけるが、それがムワッヒド朝の介入をうむ。1195年のアラルコスの戦いでは、キリスト教勢力の分裂から大敗北を喫する。しかし、その後、教皇に十字軍を宣言してもらうなど、キリスト教勢力の足場固めをして挑んだラス・ナバス・デ・トロサの戦いで大勝利をおさめ、一気に征服が進むことになる。


 ラス・ナバス・デ・トロサの戦いで、おおよそキリスト教徒側のイベリア半島制圧の目処がたったが、ここからカスティーリャを中心にキリスト教勢力ないでの内紛が延々続き、グラナダ王国などのイスラム系政権は命を長らえることになる。都合200年ほど停滞していた感じかな。
 まあ、校納金の支払いでまとまった現金が得られるから、わざと残したのかも。


 そして、1481年から92年にかけての、カトリック両王によるグラナダ王国征服でレコンキスタは終了する。というか、緒戦のアラマ制圧でグラナダ王国の背骨を折ってる感じだなあ。マラガ、グラナダ両市の包囲が大きなイベントか。
 大砲がまとまって運用されて、城塞が陥落しているのが、そろそろ中世から近世へという感じだなあ。大砲を運用するための工兵部隊が組織されているというあたり、アラゴン王国はまとまった軍資金を得るだけの徴税組織を整備したということか。
 山岳地域の城塞都市群を陥落させるには、攻城兵器とともに、グラナダ側の内紛も大きく影響した。グーグルマップで見ると、グラナダ王国の領域って、ものすごく山岳地域で、アストゥリアス王国の逆パターンといった感もある。


 で、土地は奪う物という思考が身についたヒャッハーたちがイベリア半島から解き放たれると、南米のコンキスタドールになっちゃうわけか…


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