- 作者: 前間孝則
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/04
- メディア: 単行本
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NBC呉や石川島播磨重工で達成された技術革新は、真藤恒の政治力、人間関係構築の巧みさ、国際的な経営感覚、NBC呉の技術者の若さなど、特殊な条件が揃ったために達成されたもの特殊なものであるように思える。本書でも経営学者から「NBCの現組織や考え方は同志的結合から生まれるインフォーマルなもので普遍性が無い」(p.82)と批評されたと書かれている。
同時に上司となったラドウィックや土光敏夫の器量も見逃せないのではないか。下のような記事を読んだ後だけに興味深く感じた。
規律やシステムを緩めに作って、上司の裁量で部下を泳がせる。そもそも優秀な部下というものは、上司に見えないことが見えるのでたいてい怒っていて、時として上司に理解できないような無茶をする。そういう人が、羽目をはずせる余地があってこそ、日本的経営組織というものはうまく回っていたのだ。
(オープンソースはわからないくていいから部下のことを理解しなさい)
本書では部品の標準化が合理化の重要なファクターとされる。この標準化の思想はアメリカ独特のものではないだろうか。第2次世界大戦時の英仏や日本と比べたときドイツの合理主義は際立つ。それをもアメリカは凌駕していた。例えば、大量生産されたアメリカのシャーマン戦車は、メーカーやタイプが違っていても相互に互換性があり、質で勝るドイツ戦車を数で圧倒したとされる。このような標準化の徹底がアメリカを勝利に導いた大きな要因だろう。
このような合理化・標準化の思想が形成された歴史的経緯には興味をひかれる。『大英帝国の「死の商人」』(ISBN:4062581108)と言う本では、19世紀のイギリスの手作業に頼る銃産業が、アメリカの機械化された銃生産に圧迫されていく様子が描かれる。すでに19世紀には第2次世界大戦の状況と似たようなことが起きていたようだ。移民社会であるアメリカでは熟練工が不足し労働集約的な経営が難しかったこと、それに対しヨーロッパや日本は人口が多く、熟練工が多数雇用できたこと、高価な機械の導入に対するリスクと機械化に対する反発がこのような文化・思想の差を生んだのだろう。
他になんとなく印象に残る部分を列挙する。最初に造船不況時の石川島播磨重工の弱さと三菱の強さが印象に残る。バブル期に急激に拡大した企業が、その後の不況期にバタバタと倒れたこととだぶる。安定した成長の難しさとでも言ったらいいのか。
また、ラドウィックの活動をみると、1950、60年代が世界的に拡大の時代だったのだなと思う。今の時代、ラドウィックのような世界をまたにかけ、第3世界の開発にロマンをかける人物は想像しがたい。海外進出はむしろ搾取というイメージがある。