中沢新一『僕の叔父さん 網野善彦』集英社 2004 ISBN:4087202690

僕の叔父さん 網野善彦 (集英社新書)

僕の叔父さん 網野善彦 (集英社新書)

網野善彦の甥である中沢新一の、網野氏との付き合いを回想した追悼本。網野史学の形成を、中沢家の思想・知的状況との関係という、私的な側面から描いている。網野善彦の伝記的資料として重要になるであろう。
本書では、「根源的自由」や「非人」といったキーワードが出てくる。また、コミュニズムを乗り越えようとする様が描かれる。私も網野善彦の著作は何冊か読んだことがあるが、このあたりの側面にはあまり敏感ではなかった。むしろ意図的に避けてきたと言ってもいいかもしれない。本書を読んで、私自身の網野善彦の著作の読み方が変わるだろう。個人的には網野氏らを駆り立てた知的衝動というものが感覚的に理解できないのだが。
また、本書では非農業民や貨幣が他界と関連して語られる。ちょうどその前に読んだ『闇の歴史』が「死者の世界」が同時に豊饒をはぐくむ場所であること、死者の世界への旅が豊饒を運ぶという信仰、そのような信仰を担う人々がヨーロッパ社会の周縁に位置し、魔女狩りの標的になったことを語っていたこともあり、タイミングの妙が感慨深かった。