- 作者: 池上俊一
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/11
- メディア: 新書
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第一章が自然的・歴史的環境、第二章が空間、第三章が共同体、第四章芸術、第五章宗教、第六章が娯楽と快楽。それぞれの側面から、シエナという存在とそれを生かしてきた市民たちを描きだす。全体を通してみると、普段は穏やかで合理的な人々だが、内に情熱のマグマをためている人々といった感じだろうか。その情熱のマグマは、あるいは都市を美しくよそおうことにむけられ、あるいは信仰心にむけられ、あるいは芸術にむけられ、ある時は快楽と享楽にむけられる。化粧上手でファッションに関心が強いとか、美食の街という側面もあり、逆に信仰に身も心もささげた人間が現れる。そこがおもしろい。
シエナという都市は、中世以来の街並みが維持され、また市壁内に田園空間が入り込む独特な都市だと言う。市民の心もちもあろう。だが、中世後期以降、発展しなかったこと、がシエナに独特の美を維持させたのだろうなと思う。中世以来の大都市の大概は、中世には市壁の中に農地を持っていたが、都市拡大の過程で市街化している。また、16世紀あたりと19世紀あたりの都市膨張も経験していないために、都市共同体などが分解せずに維持された。13世紀にはヨーロッパ世界でも有数の商業都市であった都市が、そのまま凍結された。それが、シエナを個性的なものにしているのだろう。
「波」はいつもイルカとともに表わされる。イルカは魚のうちもっとも高貴な種だと考えられ、ギリシャ=ローマでは半神であった。キリスト教的にも、キリストとその復活のシンボルとして、教化文学で利用された。p.108
シエナの街区の名称とシンボルに動物が多いという話に関連して。欧米人がイルカに異様なまでにこだわるのは、この辺の文化的伝統があるのだろうな。だからこそ、殺して食うというのに、強く反発する。