カルロ・ギンズブルク『闇の歴史:サバトの読解』せりか書房 1992 ISBN:4796701729

闇の歴史―サバトの解読

闇の歴史―サバトの解読

やっと、読み終わった。まるまる2週間かかった。大学の1回生か2回生の頃に挑戦し、ものの見事に挫折した経験があり、そのリベンジのつもりだったが返り討ちにあった感が強い。最後まで読了したものの3部はほとんど理解できなかった。この本にまともに向き合うにはまだまだ修行が足りないと言うことだろう。
本書は、非常に興味深い著作であるものの、歴史学の範囲をはみ出していると思う。歴史学会、特に魔女狩り研究では、研究に取り入れにくいのではないだろうか。日本語では最も新しい魔女狩りに関する概説書と思われる『魔女狩りヨーロッパ史入門』(ISBN:4000270915)では同じ著者の『ベナンダンティ』は参考文献に入れられていたが、本書は入っていなかった。方法論的にも文化人類学言語学に近いものがあり、内容とは別に、歴史学の書物としては利用しにくいのだろう。
本書は3部で構成されている。第1部は弾圧する側のサバトについてのイメージがどのように形成されていくかを、14世紀半ばのペスト流行期の「ハンセン病患者の陰謀」から語り起こしている。史料を時系列にそって検討しており、歴史学の方法が適用されている。
第2部以降は、歴史学から飛躍していく。1章ではケルト文化圏の「夜の女神」の神話がサバトの夜の飛行のイメージに流れ込んでいることが明らかにされる。2章ではシチリアに似たような性格の女神が存在することから始まり、ユーラシア全域に広がるシャーマニズムの影響を論じる。3章ではフリウーリ地方のベナンダンティから始まり、東欧・コーカサス地方に広がる、恍惚状態での戦いという信仰の存在が、4章では動物と死者の関係が明らかにされる。個人的には一番面白かった部分である。「形態的な」比較から一見ばらばらに見える伝承や儀礼が相互に結びつき、巨大なユーラシア全域に広がる死者・他界をめぐる信仰が姿を現すのは、知的な興奮を呼び起こすものであった。
第3部に関しては、実は語るべきことがない。方法論的な吟味を意図した部分だが、構造主義的方法・言語学的な方法に無知な私にとって、理解を越えた議論が展開され、ほとんど字面を追っていくのが精一杯であった。注を見る限り構造主義の方法論の影響を受けているようだが、それ以上のことはわからない。
正直、きっちり読めたとはいえない状況だが、一通り通読したことで、同じ著者の本への敷居が低くなったように思う。近いうちに『ベナンダンティ』か『歴史・レトリック・立証』を読む予定。また、最近興味を失っていた神話・伝説も、このような読みかたを知って、再び興味を抱くようになった。