土屋健『生物ミステリーPRO:古第三紀・新第三紀・第四紀の生物:上巻』

 いよいよ、新生代。哺乳類の時代に突入。三つの紀をまとめて、上下巻に。本書、上巻は、イヌ類、ネコ類、クマ類、長鼻類、ウマ類などを、新生代全体をまとめて紹介する零部と古第三紀を扱う第一部から成る。下巻は、新第三紀を扱う第二部と第四期を扱う第三部収録とのこと。


 構成は以下の通り。
新生代 第零部

  1. 「人類最良の友」たち
  2. もっと速く、もっと大きく



第1部 古第三紀

  1. 大量絶滅事件の生き残り
  2. 鳥類“水中”へ進撃す
  3. 緑の川、白の川
  4. またもやドイツに“窓”は開く
  5. バルトの琥珀
  6. 哺乳類!哺乳類!哺乳類!!
  7. 哺乳類、海へ



 第零部は、新生代ぜんぶを通じた、イヌ、ネコ、象、馬などの歴史。
 イヌ科とネコ科の動物を比べると、ネコ科の方が多様で、成功しているのかな。イヌ科動物が平原に適応した一方で、ネコ科は森林に適応したといった感じなのかな。ネコ型類が出現して、そこからネコ科動物が出現した猫と、最初にイヌ科が出現してそこからイヌ型類が登場した犬の対称性もおもしろい。
 あるいは、最初はイタチのような共通祖先から分離。サーベルタイガーの類がアメリカ大陸で繁栄。北米大陸では、イヌ科とネコ科が競合したのではないかと言う話。イヌ類では、北アメリカ大陸から南アメリカ大陸へ進出しなかったボロファグス。平原の大型生物に適応しすぎて、熱帯雨林に進出できなかったのか。あるいは、暑さに弱かったのか。ダイアウルフの興味深い。巨大な狼。1万年前に、大型哺乳類絶滅とともに消えた生き物。巨体を維持するには、やはり歩留まりのいい獲物が必要だった。人間と競合したってことなのかね。


 後半は、象と馬。
 最初の頃の馬の仲間って、鹿みたいな外見なんだな。古第三紀は暁新世には、温暖で森林が広がる。それが、始新世には寒冷化が進み、草原が拡大する。このような環境で、走る速さと固い歯で、イネ科植物に対応したのが馬の仲間と。しかし、鹿や牛の類と比べると、植物食に適応しきれたといえない感じの生き物だな。だからこそ、現在、野生でまとまった数が生き残っているのは、シマウマくらいという状況になるのだろう。ユーラシア大陸の野生馬は、有用性故に、捕獲されてしまったというのもあるのだろうけど。食肉の源としては、それほど魅力的でないため、家畜化が遅れたという話も興味深い。
 象に関しては、絶滅した種類の、奇想天外な姿がすごいな。牙が下を向いているとか、邪魔にしかならなそうな生き物もいるし。まっすぐ、前に牙が突き出した種類は、地中の根塊や虫を食べるのに便利そう。


 第1部は、古第三紀
 中生代末の大絶滅を超え、哺乳類の時代に。暁新世から始新世極初期にかけての温暖化の時代から、その後、寒冷化の方向へ。大陸配置は、ほぼ現在の姿に。インド大陸は、ユーラシア衝突寸前。テチス海消滅寸前。南極大陸とオーストラリアが分裂し、南極が極寒の大陸になる直前あたり。北アメリカ産の馬や犬がユーラシアに拡散したり、まだ、両大陸がつながっていた時代なんだよな。
 ジュラ紀から新第三紀の中新世まで生き延びた爬虫類コリストデラ類が印象的。口蓋の裏側に、おろし金のような歯が発達した生き物。ワニみたいな感じなのかね。あとは、重量1トンに達すると推測される巨大蛇。そして、地上性の巨大鳥、ガストルニス類。恐竜みたいな姿だが、植物食の可能性もあるとか。


 水中に適応した鳥類、ペンギンとペンギンモドキの紹介。白亜紀末の大絶滅から400万年ほどで、水中というニッチを確保した、南半球のペンギン類。古第三紀中盤以降に太平洋で拡散したペンギンモドキ。ペンギンも最初は鵜みたいな姿をしていた。また、何らかの形で獲得した上腕動脈網が、寒冷地への適応を可能にしたと。一方、ペンギンモドキは、クジラやイルカなどの、水中哺乳類との競争に敗れて、絶滅したと。


 3章は、アメリカのグリーンリバー層とホワイトリバー層という二つの良質な化石を産出する地層の紹介。前者は5500万年前から3300万年前。淡水湖だったため、大量の淡水魚の化石が産出。販売されているとか。コウモリの化石からは、この時期、まだエコーロケーションを得ていなかったらしいということがわかるとか。
 後者は、3700万年前から3000万年前。哺乳類化石が多産。もののけ姫のタタリ神みたいなアルカエオテリウム、痩せたサイのヒラコドン、肉歯類のヒアエノドンなど。保存状態いいなあ。


 第4章は、ドイツのグルーベ・メッセル。オイルシェールの産地で、かつては乾燥すると分解して保存できなかったが、今では樹脂で置き換えて、保存状態が良い化石を固定できるようになったと。産廃処分場になる危機もあったそう。
 魚にカエルに蛇に。カンガルーみたいな、でもジャンプはできないレプティクティディウム類がおもしろい。あとは、胎児を宿したエウロヒップスや花粉を付けた鳥媒の最初の事例。凄まじくよく保存されたキツネザルの仲間など。


 第5章は、バルト海の海底に形成された、琥珀の層の話。そのかけらが、荒天で岸に打ち上げられて、人間が観察できるようになると。虫や植物が、すばらしい保存状態で封じこまれている。


 第6章は、この時代の「主役」哺乳類。
 まず第一波として、恐角類や肉歯類が拡散。やたらと頭のでかい狼みたいな肉歯類アンドリュウサルクスが印象的。温暖な環境に適応しすぎたのか、第二波の哺乳類の追い越されていく。ぱっと見たところ、竜脚類の恐竜にしか見えないインドリコテリウム。つーか、骨だけ見ると、哺乳類も恐竜も、いまいち違いがわからないな。
 そして、巨大な骨性の角を持つブロントテリウム類の紹介。すごい生き物もいたものだ。


 古第三紀の最後は、哺乳類の水中進出。主な舞台はインドからパキスタン地域だったが、研究資金が足りなくてクリーニングが進まなかったり、治安の悪化が足かせになって、研究が進んでいないと。
 この地域で、淡水から海洋へと、哺乳類が水中生活に適応していった。水かきが付いた程度から、徐々にクジラのような形に。「ムカシクジラ類」には、申し訳程度の後ろ足が残っているのだな。やたらと胴長バシロサウルス(哺乳類なのにトカゲ扱い)が印象的。