土屋健『生物ミステリーPRO:三畳紀の生物』

三畳紀の生物 (生物ミステリー(生物ミステリー プロ))

三畳紀の生物 (生物ミステリー(生物ミステリー プロ))

 いよいよ、シリーズも中生代に。中生代最初の時代、三畳紀。ビッグ5にはいる大絶滅二つに挟まれた時代。恐竜は、まだ主流になっていない時代。陸上生態系では、前代から残る単弓類や、ワニに近い爬虫類クルロタルシ類が、初期の恐竜と覇権を競っていた。知らないことだらけで、驚く。そういうことになっていたんだ。
 あと、本シリーズの古生代までのものと比べると、無脊椎動物の扱いが小さくなっているのが印象に残る。それだけ、陸海空の各生態系への、大型の爬虫類や単弓類の進出が著しいということなのだろう。この時期、魚類は、それほど顕著な変化がなかったのかな。海洋生態系に関しては、魚竜類が進化して、陸上より先に中生代的状況になっているのも、興味深い。
 全体的な状況としては、パンゲア大陸が分裂する段階に入って、大陸の真ん中に巨大な内海テチス海が出現する。このような環境の出現が、海生ないし沿岸に生きる大型爬虫類の多様化を促したのだろうな。地上でも、汎大陸的に生息する種類が減って、個々の地域に固有の生態系が形成されたという。こちらは、どういう理由でそんなことになったのだろうか。


 全体の構成は以下の通り。

  1. 大絶滅から一夜明けて
  2. 再構築された海洋生態系
  3. 水際の攻防
  4. テイク・オフ!
  5. クルロタルシ類、黄金期を築く
  6. 大繁栄の先駆け
  7. 第4の大量絶滅事件



 第1章は総説的なところ。海洋生物種の96%、陸上生物種の69%が消滅した、最大の大量絶滅ペルム紀末の大絶滅の後。さらに、5000万年後には、これまた、ビッグ5の一角を占める大量絶滅が発生。その狭間の時代であることが強調される。


 第2章は、海洋生態系の話。いったん壊滅した生態系は、数百万年で再構築された。絶滅しかけたアンモナイトの再拡散。魚竜の出現。日本で発見されたウタツサウルスが、最古の化石なのか。胎児の化石が残り、胎生であることを明らかにしたチャオフサウルス。巨大な肉食魚竜タラットアルコンやヒゲクジラのような生態だったらしいショニサウルス。アザラシのような姿をしていたり、亀の甲羅のようなものをつけていたプラコドン類。クビナガリュウにそっくりな鰭竜類などなど。
 魚竜類の祖先とされるカートリンクスの再現イラストがかわいい。
 魚竜の進化に関しては、日本や中国などの東アジア圏の発見が重要なようだ。このあたりが、出現地だったのかな。中国雲南省の羅平は、保存状態の良い海洋生物の化石が多産することで、近年注目を集めていると。


 第3章は、水辺の生物たち。両生類としては、最古のカエル類が登場。亀類の進化も興味深い。亀の甲羅は、肋骨が変化したものだが、腹側だけに甲羅を持つオドントケリスが出現。つーか、腹側に装甲を持つ意味って、なんなんだろう。亀類に関しては、陸上起源か、海洋起源かで、論争があるそう。
 あとは、キリンのようについ骨を大型化した首長爬虫類のタニストロフェウスがおもしろい。サギみたいに、魚が来るのを待って、長い首で釣り上げたのだろうか。


 第4章は、翼竜をはじめとする空中に進出した爬虫類と、高度によって住み分ける森林性体系の話。肋骨の延長を使った翼で滑空するクエネオサウルス類。まだまだ小型な三畳紀型の翼竜。森林の中低層で生きていたとおぼしき爬虫類。
 クフィル戦闘機のようなデルタ翼カナード装備のように復元されたシャロビプテロクス、葉っぱに擬態してたように復元されるヒプロネクターがおもしろい。


 第5章は、地上生態系の最上位を占めたクルロタルシ類について。脚が下にまっすぐ生えたワニとしか、表現できない。ワニの祖先も含むグループ。肉食性のサウロスクスやアリゾナサウルス、装甲を持つ雑食性のアエトサウルス類、二足歩行のエフィギア、首だけ見るとティラノサウルスのようなラウィスクス類。
 全長5メートルのサウロスクスや10メートルのファソラスクスとか、すごいな。
 あとは、アエトサウルス類でトゲトゲのデスマトスクスもかっこいい。アエトサウルスは現在で言えば、イノシシのような生態だったのかな。
 一方で、単弓類は、大型種が絶滅して、しばらく小型の種類だけになると。


 第6章は、恐竜について。まだ、この頃は、かなり地味。多様化は進んで、竜脚形類、竜盤類、鳥盤類と多様化していたが、姿そのものは一見するとどれも似たような感じ。あと、ここらの分類群は、先日、まったく違う体系が唱えられたように、今後見直されるかも。三畳紀末になると、全長18メートルの大型恐竜、竜脚形類レッセムサウルスが出現すると。
 単弓類では、キノドン類から哺乳類の祖先となるモルガヌコドンが出現すると。


 最後は、三畳紀末の大絶滅。海洋生物では、科レベルで20%、属レベルで30%が消滅。陸上生物でも昆虫やクルロタルシ類などが絶滅。ただ、この時代の地層の残りが悪く、今のところよくわかっていないと。噴火説と隕石説が、ここでも、有力と。

 スイス、チューリヒ大学のアーナウド・プラヤールたちは、三畳紀前期のこの急速な回復について、海域ごとにどのような変化があったのか2006年にまとめた。プラヤールたちの研究によれば、アンモナイト類は海域ごとに固有種が発達し、そのことによって多様性を回復していったという。とくに、緯度による種の多様性のちがいが大きかったという、このことから、三畳紀前期の海は緯度によって海表面温度に大きな差異があったことが示唆される、とプラヤールたちは述べている。つまり、低緯度の暖かい海域と、高緯度の冷たい海域の温度差が激しく、アンモナイト類の多様性の回復はその影響を受けた結果の産物だ、というのである。p.21

 へえ。どうして、そうなったんだろう。


 文献メモ:
富田幸光他『新版 絶滅哺乳類図鑑』丸善出版、2011
『世界最大の翼竜展』北九州市立自然史・歴史博物館、2007
翼竜の謎』福井県立恐竜博物館、2012
小林快次『ワニと恐竜の共存』北海道大学出版会、2013
土屋健『大人のための「恐竜学」』祥伝社新書、2013
後藤和久『決着!恐竜絶滅論争』岩波書店、2011
平野弘道『絶滅古生物学』岩波書店、2006