土屋健『生物ミステリーPRO:白亜紀の生物:下巻』

白亜紀の生物 下巻 (生物ミステリー(生物ミステリー プロ))

白亜紀の生物 下巻 (生物ミステリー(生物ミステリー プロ))

 白亜紀編後半。だいたい、白亜紀の後期、場所的には南北アメリカ大陸がメイン。北米の中西部は、白亜紀には浅い内海になっていて、ロッキー山脈が存在する地域は恐竜の楽園になっていたと。あと、ブラジルからは翼竜の化石が大量に発見されているとか。
 ヨーロッパの恐竜の紹介が少ないあたりは、本書の特徴といっていいのかね。
 ティラノサウルスは一章を当てて紹介。ラストは、白亜紀末の大絶滅。


 構成は以下のとおり。
7.翼竜大産地、「ブラジル」
8.The Western Interior Sea !!
9.恐竜たちの楽園「ララミディア」
10.ティランノサウルス
11.世界の恐竜たち
12.第5の大量絶滅事件
エピローグ


 最初はブラジル、アラリッペ台地のサンタナ層とクラト層。前者からは良質な押しつぶされていない立体構造を維持した良質な魚類化石をはじめ、翼竜、爬虫類の化石が産出。城西大学水田記念博物館大石化石ギャラリー収蔵の魚類化石がたくさん紹介されている。また、軽量化のために中がすかすかで化石が残りにくい翼竜の化石が多数産出し、頭に膜による帆をはったツパンダクティルスインペラトール、トサカが印象的なタペジャラ・ウェルンホフェリ、同じくタラッソドロメウス、トゥプクスアラ、鋭い歯を持つアンハングエラなどが紹介される。また、様々な発達段階の頭骨が発見されているカイウアジャラ・ドブルスキイが興味深い。
 他に最古のウミガメ、サンタナケリスや白亜紀シーラカンス類などが紹介される。クラト層の昆虫の化石も、保存状態のよさがすばらしい。


 8章はWestern Interior Sea。北アメリカの西部に、白亜紀にあった浅海から産出する化石。この「西部内海」に分断されて、北アメリカ大陸はララミディアとアパラチアに分断されていた。
 浅いといっても、それなりの大きさの海生爬虫類が繁茂できる海。6メートル近い巨大肉食魚類シファクティヌスをはじめとする巨大魚類。最大10メートルにもなり、シファクティヌスやモササウルスすら狩る凶悪なサメ。最大のカメ、アーケロン。首長竜のエラスモサウルスや「首の短い首長竜」メガロケファロサウルス。最強海生爬虫類の呼び声も高いモササウルス。モササウルスって、ヒレ付きのトカゲみたいなイメージだったけど、最近の研究では尾にヒレがあって、クジラのような姿をしていたという。全くイメージが変わるな。旧来の復元が、かっこいいと思うけど。古生物学はあっという間に変わるものだ。
 あとは、超有名翼竜プテラノドンやたらと長いトサカをつけたニクトサウルス、そして翼を捨て、海に適応した鳥ヘスペロルニス。


 第9章は、現在のロッキー山脈周辺にあたる大陸「ララミディア」の恐竜たち。現在、御船町恐竜博物館で、モンタナから発掘された恐竜の展示が行われているが、まさに、この場所の恐竜たちだな。白亜紀後期には、イネ科を除く被子植物が出そろって、植生を支配していた。本章では、トリケラトプスパキケファロサウルス、アンキロサウルス、エドモントサウルス、パラサウロロフス、オルニトミムス、トロオドン、ディノニクスといった有名どころの恐竜が並ぶ。トリケラトプスに関しては、成長による容貌の変化や集団性が興味深い。つーか、昔の恐竜イラストだと、群れたトリケラトプスのイメージはよくあったけど、化石からすると成体は、群れないのか。まあ、首のフリルがあれば、肉食獣による喉を絞められて一撃死しにくくなるから、群れなくても良かったのかな。幼体は群れていたそうだが。
 「石頭恐竜」で有名なパキケファロサウルスが、頭突きに向いていたかどうかの論争も興味深い。飾りにしては、分厚い頭骨は、リソースが高すぎるような気がするが。エドモントサウルの歯が、植物のすりつぶしに関して、哺乳類より性能が良かった。オルニトミムスに見る翼の起源が求愛用だった可能性などなど。
 この時期になると、アリゲーター類の巨大ワニなども登場する。


 第10章は、白亜紀の「王者」ティラノサウルスに、一章を割いている。「スー」を含む、骨格が複数発見されて、研究が進んでいると。全長12メートル、体重6トン。強力な顎で獲物を噛み砕くし、嗅覚が発達しているとか。ジュラ紀の王者、アロサウルスが全長8.5メートル、体重1.7トンとずいぶん華奢なんだなと。
 骨に残った成長を示す年輪から、ティラノサウルスが、10代、特にその前半に急激に成長したこと。それで、体を大きくして、戦闘力を高めたと。一日2キロってのもすごいな。
 あとは、近縁種の紹介など。


 11章は世界の恐竜たちということで、あちらこちらの恐竜たち。巨大恐竜アルゼンチノサウルス、魚食恐竜?スピノサウルスとその新たなワニっぽい姿の復元の話、ゴンドワナの巨大肉食恐竜カルカロドンサウルスやギガノトサウルス、細い歯が並ぶ独特の竜脚類ニジェールサウルス。そして、中生代を通して、独立の大陸だった、インドの恐竜たち。そして、南極から出土した恐竜の化石。南極は、氷床で地層が削られまくってそうだな…


 最後は、白亜紀末の大絶滅。メキシコはユカタン半島に残る巨大クレーターの話。酸性雨が生態系にダメージを与えたというのは、他の天変地異と比べて、納得しやすいかな。体重25キログラム以下、海洋表層に住んでいなかったというのが、生存の鍵らしいと。