川上和人『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)

 言い訳の多い料理店w 人を食ったような注が、個人的には好き。
 内容としても、鳥類と恐竜の関係をわかりやすく解説した本なのではなかろうか。鳥類と恐竜の系統関係が明らかになっていった過程などは、すっきりと整理されている。なるほどね。羽毛だけではなく、鎖骨の存在、骨から観察できる気嚢、DNA分析、発生分析から三本指の謎が解けるなどという要素がつながって、現在の鳥類=恐竜と言う見解が定説化したと。


 メインは第2章の恐竜が鳥へと進化する過程の話と第3章の鳥の生態から恐竜を考えた話。
 第2章は、恐竜から鳥類への進化。
 そもそも、鳥は、飛翔という無理を可能にするために、相当なコストを支払っている。多くの骨を癒合させ、内部を中空にすることで、軽量化している。また、体の各部に気嚢という器官を配置することで、常に肺に酸素を供給できるようにすると同時に、筋肉もミオグロビンを多数持ち、酸素を大量に保持できるようにしている。また、急速に育てて、できるだけ早く空に飛び出せるようにしている。
 このような飛行可能な体になるために、左右非対称な形の羽、腕を翼へと造り替え、尻尾や歯を捨てるなどの進化を行った。さらには、先に空に進出していた翼竜とのニッチの取り合いの必要。それらを乗りこえて、空の覇者になった。
 「節約的」というのがキーワードだな。いろいろな系統の恐竜で、保温や繁殖時のディスプレイ目的で羽毛を進化させている。しかし、現在の鳥類のような複雑な形のものは獣脚類の一部でのみ発達した。あるいは、二足歩行かつ顎の発達で、使い道がなくなった腕が翼としてリサイクルされる。頭部とのつりあいや足を動かす筋肉を付着させる場所として重要だった尾は、飛行にともなってリストラ。手の代わりとしてクチバシができると。重量的には、筋肉が大量についた胃は、あまり変わらないと。
 始祖鳥の話も興味深い。化石に竜骨突起がついていなくて、飛ばなかったのではないかという説があるが、現生の鳥は、形態的に最適でない活動もやりくりで対処していると指摘。始祖鳥もそれなりに飛べたのではないかという。


 第3章は、翻って、現在の生物の観察が、恐竜に応用できるかという話。
 最近の恐竜の復元はカラフルになっているが、白い恐竜もいるのではないかということで、条件を考察。群れて、危険度を分散する生き物か。翼竜の色を考察した次の節もおもしろい。逆光で色が識別しにくいために、黒と白のツートンカラー。で、シルエット重視とか。
 鳴き声の考察もおもしろいけど、ぷーぷーぷーと鳴く恐竜って、迫力ないなあ…
 毒を使った恐竜がいたかどうかというのも興味深い。捕食型の恐竜で毒を使うものがいてもおかしくないよなあ。逆に、食べ物から毒を蓄積し、対捕食に利用する生物も多いと。
 あとは、巣をどこに作るかという話や夜行性の恐竜の話とか。


 最後は生態系の話。重量級の恐竜が闊歩し、踏み固められた「恐竜道」が形成。そこに多くの生き物が集まるようになるか。
 あるいは、植物に対する捕食圧とか、生物が作り出すメタンガスの温室効果
 そして、恐竜の絶滅。恐鳥類って、普通に恐竜だよなあ…


 以下、メモ:

 現生の空飛ぶ脊椎動物としては、ムササビやコウモリ、トビトカゲ、トビウオなどが頭に浮かぶ。トム・クルーズアンジェリーナ・ジョリーもときどき空を飛んでいるようだが、それは気にしない。ムササビなどが飛行に使うのは、いずれも皮膜である。羽毛の場合は、新たな装備をゼロから進化させていく必要がある。しかし皮膜は、すでに体に装備されている皮膚を拡張していけばよく、比較的進化しやすかったのだろう。このことが、さまざまな動物で飛行器官として皮膜が採用されている最大の理由と考えられる。p.101-2

 皮膜の方が、進化にかかるコストが低いと。一方で、羽毛の方が維持や機能で優れている。

 しだいに、翼竜は黄昏の時代を迎え、より飛行に適した形態をもつ鳥類に、徐々に制空権が移動していったのだろう。小型の翼竜が姿を消したのは、そのニッチを鳥類に奪われたためかもしれない。ある分野を開拓する先発者は称賛に値する。しかし、後発者により先人が追い落とされることは、世の常である。出雲でも、大国主命が建御雷神に国譲りしたことは、まだ記憶に新しい。そして、白亜紀末の小天体衝突が、翼竜の系譜に終止符を打つことになる。p.108

 記憶に新しいってw
 いや、恐竜の時代からするとつい最近扱いかもしれんがw

 恐竜は鳥の祖先である。そして、鳥の声というと、どんなものを思い浮かべるだろうか。それは、渓谷に響き渡るミソサザイのさえずりの声であり、亜高山を賑やかすオオルリのさえずりであろう。しかし、恐竜が彼らのように繊細なさえずりを出していたかというと、そうではないだろう。美しいさえずりは、スズメ目の鳥類で発達しているが、スズメ目は、鳥類のなかでも最も最近になって進化してきた分類群である。そして、鳥類のなかで比較的古い時代に進化したのは、ダチョウやキジ、カモの仲間など、比較的鳴き声が単純な種である。残念ながら、複雑な歌声を恐竜に期待するのは、かわいそうかもしれない。p.159-160

 へえ。スズメ目は新参者と。

 採食圧は、植物の防御機構を進化させただろう。植食動物の捕食にさらされた植物では、トゲの形成や葉の硬化などの物理的防御、毒性物質の生産による化学的防御が進化しやすくなる。マツに代表される針葉樹では、しばしば松ぼっくりにような硬い球果をつける。裸子植物中生代に進化しており、彼らが硬い球果を進化させたのは、恐竜による捕食圧が原因だった可能性が指摘されている。また、ソテツの種子にはサイカシンなどの強い毒が含まれているが、これらも対恐竜戦略として進化したといわれている。このような防御ができなかった種は、もりもりと食べられ速やかに絶滅していったはずだ。森林の中低木を食べ尽くせば、太陽光は草本層に達し、下層植物が生い茂ったにちがいない、。そこでできた林内空間は鳥が飛び回るスペースを作り、森林性の鳥類を進化させただろう。p.230-1

 へえ。針葉樹やソテツ類の現在の姿が、恐竜の捕食圧の反映なのか。そりゃ、でかいしなあ。食べるだろうなあ。