山内一也『ウイルス:究極の寄生生命体』読了

ウイルス究極の寄生生命体 (NHK人間講座)

ウイルス究極の寄生生命体 (NHK人間講座)



NHKの人間講座のテキスト。専門的な部分に深入りせず、さらっと解説してある。まとめて読めるのは便利。
最後の3章は、今問題になっているエマージング・ウイルスについて、触れている。これを読むと、エマージング・ウイルスの発生が、人間による環境の改変によって起きていると、改めて思い知らされる。
食料品貿易の世界的拡大がアジア各国に大規模養鶏場を出現させ、それが鳥インフルエンザの温床となった。飛行機による人の動きがSARSを世界に広げた。ペットショップで多種の野生動物が接触することによって、アメリカで人がサル痘に感染する。今後もこのような事態は頻発するのだろう。
一番ショックなのは、最後の章で指摘される、日本での対策の遅れ。1970年代に大学医学部での動物実験によるハンタウイルスの院内感染のエピソードも含めて、日本の医学界の認識の遅れには暗然とせざるを得ない。