滝川康治『狂牛病を追う』

狂牛病を追う―「酪農王国」北海道から

狂牛病を追う―「酪農王国」北海道から

感染リスクが高い廃用牛が、へい獣処理場へ元気なうちに送り込まれ、プリオンの検査を行わないまま、焼却されていく状況の描写を読んで衝撃をうけて読んだもの。
有機農業への信仰・工業的畜産への批判など、思想のかたよりはあるが、狂牛病対策の問題点を追求したもの。現場の知識・従事者への直接取材によって、学者の著書とは違う視点から狂牛病の問題をみることができる。
特に、肉骨粉の流通経路の追跡が詳しい。
最終的に、高泌乳路線を批判し、有機農業への転換を主張する方向へ論が進むので、人によっては読みにくいかもしれない。
個人的には、アメリカなどの大規模畜産に対抗するには、規模・生産量で対抗するのではなく、飼料などのコストをかけない低投入の畜産・農業のほうが有望だと思うのだが。
ずいぶん前に読んだので、記憶がいろいろあいまいになっている。
以下、メモ。

感染牛が確認されるまでは、一年間に国産のものが40万トン、オーストラリアなどからの輸入ものが18万トン、合わせて60万トン近い肉骨粉が流通していたとされる。
 牛の飼料には、どれくらいの量の肉骨粉を与えられていたのだろうか――。
 1996年の「肉骨粉などの使用自粛」を求める行政指導の前には、EU報告書(序章参照)では、「総量の2-6%」、農水省の見解では「同0.02-0.06%」としており、そこには100倍もの開きがある。60万トンの流通量とすると、前者で1.2-3.6万トン、後者では120−360トン、という数字になる。
 一方、行政指導にもかかわらず肉骨粉入りの飼料が製造・出荷され、一部の農家は牛に与えていた。2001年秋の農水省の調査結果によると、肉骨粉を与えた牛は全国で約1500頭に上る。これに、骨を蒸気圧のもとでゆっくり処理しタンパク質や脂肪の大部分を取り除いてから圧搾・乾燥して粉砕した「蒸製骨粉」や、屠場から出る家畜の血液を乾燥して粉末にした「血粉」を与えていたものを加えると5129頭になる。
…………
 したがって、農水省が示した1996年以前の使用量は過小評価であって、実際にはEU報告書に限りなく近い量の肉骨粉が与えられていた。そして、指導後にようやく当初の数字に近づいてきた――というのが真相だろう。
p.75-76

 牛に与えることが禁止されたのは、前出の蒸製骨粉のほかに、骨からゼラチンや膠を取り除いたあとに圧搾・乾燥して粉砕した「脱膠骨粉」、加圧せずに解放釜で蒸し煮した「生骨粉」、脱脂骨を鉄製の炉に入れて密閉した状態で蒸し焼きにした「骨炭」などと呼ばれるものだ。ただし、骨炭でも、空気を遮断し、800度以上で8時間以上過熱して炭化させたものはOK。また、1000度以上で燃焼した「焼成骨粉」も規制対象外だ。原料の表面と中心部とでは加熱状態は違うし、どうチェックしているのか不透明なところがある。業界の利害も絡んでいるようだ。狂牛病対策ですっきりとしない問題の一つである。
p.85

 わたしは血漿タンパクについて、「ミルフードA」を販売してきたホクレンを取材したことがあるが、使われているのはアメリカ製の豚由来のもので、「大きなロットで買っており、牛と豚は別の製造ラインなので混じることはないはず。証明書もある」(飼料部)との説明があった。
 「中間報告」を読む限り、配合飼料に含まれる血漿タンパクについては、牛か豚かを特定しただけで、掘り下げて調査していない。そこで、同省飼料課に電話取材すると、
血漿タンパクの輸出国(アメリカ)はBSE非汚染国であり、感染度に関する評価でもカテゴリー4と低リスクに分類されている。近々にこれ以上詳しく調査する予定はない」
 と、素っ気ない答えが返った。
p.130

アメリカでもBSEの感染が確認された、今となっては、大甘もいいところの話だな。
本書が書かれた時点でのBSE感染牛は4頭、いずれも1996年生まれだったとのこと。
上に引用した文章からすれば、1996年時点でアメリカはすでにBSEに汚染されていて、肉骨粉の生産ラインで交差汚染が起きていたことを示しているのではないか?

「いまの日本は経済だけの畜産になっている。生産するための資材費を地域の外やアメリカに支払っているけれど、徹底して土地を活かし、資材を使わない酪農に転換していくことが地域産業を振興させる基本原則だと。『農業は生態系そのもの』という意識がなければ、逆に生態系からしっぺ返しがくる。人間にとって都合が良い草ではダメなのであって、牛にとって都合の良い草を作らなければならないんだ」
p.160

ある意味、正しい認識だと思う。自分のところで賄える限り賄うほうが、その地域が主導権を得るうえで有利だと思う。他者に主導権を握られてしまえば、利益の一番大きなところはそっちに持っていかれるだろう。
ついでに流通も自分のところで支配できればなお良い。