野口昌夫『イタリア都市の諸相:都市は歴史を語る』

イタリア都市の諸相―都市は歴史を語る (世界史の鏡 都市)

イタリア都市の諸相―都市は歴史を語る (世界史の鏡 都市)

刀水書房の「世界史の鏡」シリーズの一冊。
最近はこのような建築系からの都市史がはやりだな。確かに建物の実測から都市の歴史を推し量るというのは、エキサイティングな学問だろうと思う。長い間、建物が残る石の文化の世界だからこその学問。日本では、比較的短時間で建物が朽ちてしまうから、難しい(それでも町並みなどを見ているとなんとなく歴史の蓄積が読めるような気がするが)。
ただ、読んでいて感じたのは、この人日本の街はあまり歩いていないなあということ。あと、歴史学とのつながりのなさ。歴史学方面でも定住の歴史については成果が蓄積されている。このあたりの地域ではインカステラメントなんてのがキーワードか。歴史学との協働ができれば、都市に関するに認識がさらに豊かになると思うのだが。
あと、その土地の文化に対する、環境の重要性が印象深い。イタリアの都市の生活では、夕方以降のそぞろ歩きは良く語られる。また、本書では広場やパラッツォを利用した架設の舞台での演劇が取り上げられている。こういうのは、地中海気候の夏が、乾燥して雨が少なく、昼は外に出るには暑すぎるという気候条件が大きいのだろうと感じる。日本だと宵の口は、夕立が降ったりするだろうし。まあ、昔は夜市とか、夕涼みの習慣はあったのだろうけど、アスファルトが熱を溜め込む昨今、夕方も蒸し暑いしなあ。
あと、ヨーロッパの別荘の話。ヨーロッパでは都市住民が農村の拠点として別荘を持つというのは結構広い範囲で一般的なのだが、日本ではまったくそういう文化が普及していない。この理由としては、草の繁茂が問題なのではないだろうか。日本で田園地域に別荘を持っても、週末の度に炎天下で草取りと考えると、全然楽しくなさそう。油断すると、雑草に沈みそうだし。このあたりの植生の差というのが、キーポイントなのではないだろうか。