田中良之『骨が語る古代の家族:親族と社会』

 歯冠計測値を利用した墓地の古人骨の親族関係の推測から、古代の社会構造を明らかにしようとしている。すごくおもしろいのだけれど、いまいち理解できていないところが。歯冠計測値の比較からは、埋葬されていた人骨のペアがかなり近い血縁関係にあるというところまでは推測できるが、それが実際にはどのような関係なのか。あるいは、居住や実際の家族関係の形などの、他の社会的関係が分からないために、どうにも隔靴掻痒感がある。ついでに、モデル化とか、そのあたりが苦手なので、それがより理解を遠くするというか。抽象的な、個人が見えにくい議論が根本的にダメなのかも。
 縄文時代に後半あたりから双系の部族社会が形成され、その原理によって新来者を受け入れ、弥生時代にも同様な社会構造が継続されたこと。あるいは、5世紀に、中国の影響をうけつつ、「父系制に転換し、「家父長制的家族」が形成されたという指摘は、興味深い。このあたりの古代の国家形成や親族関係にについての研究史を知らないから、そのあたりの当否については、よく分からないけど。
 理論的検討や学説史の整理などから始まる極めて真面目に作られた本。具体的な事例から分析されている。ただ、個人的には理論の整理の「新進化主義」については、ちょっと受け入れがたいところが。というか、発展段階論的な議論が好きになれない。部族社会から首長制社会については、実際にはそれほど差がないのではないかと思ったりもする。