後藤治他著『それでも「木密」に住み続けたい!』

それでも、「木密」に住み続けたい!―路地裏で安全に暮らすための防災まちづくりの極意

それでも、「木密」に住み続けたい!―路地裏で安全に暮らすための防災まちづくりの極意

 木造密集市街地(以下、木密と省略)の魅力を紹介する本かと思いきや、木密を保存するために、それの危険性と対処法について紹介している本であった。本屋で見かけて気になっていたが、図書館に入ったので即借りる。
 内容としては、第一章では木密の都市としての魅力の紹介と関連制度の紹介。第二章は木密の災害に対する脆弱性について。関東大震災やその他の大火だけではなく、日常生活での脆弱性が紹介される。火災と延焼、救急車両が入れない、避難路の問題、高齢化と孤独死、地域の防災力などの問題点が列挙される。
 第三章は、それらの脆弱性を前提としつつ、それにどのような対応ができるかを紹介する。本書の半分弱を占める、中心的な部分といっていいだろう。街の魅力を見直す、災害情報の共有、初期消火、災害弱者を中心とする避難、建物の耐震・耐火改修、消防団や自主防災組織など、ハードからソフトまで。個人の建物から地域の人を巻き込んだ防災力の強化まで。様々な防災力を高める方策が紹介される。
 個人的には可搬消防ポンプやスタンドパイプなどの、消防のための器具類が興味深かった。他には、袋小路の道路を改修して二方向避難を可能にする必要性。特に個人の敷地内を通りぬけ可能にしたり、町屋では中庭を抜けていくようにする、真ん中の建物の除去などの方法が紹介されている。圧死や火災の延焼を招く住宅の倒壊を防ぐために、各種の耐震補強や伝統工法の優れている部分、モルタルなど表面の耐火などの紹介や自主防災組織と消防団の区別などが興味深い。家屋を耐震補強して、建物の間に防火材によるクッションを作るだけでも、ずいぶん大きな効果がありそうだなと思う。軽くて薄い素材かなんかができないのかな。本書の本命は自主防災組織などの人のつながりによって、防災力を高めることにあるのだろうけど。
 第四章は、自分が住む地域での活動を支援するための各種の法律や制度の紹介。まとめとして、自主的に防災力を高め、木密を保存しようとする動きに対する支援が少ないことへの指摘。また、建築基準法を悪者にすることは意味がないという。
 コラムも含め、具体的事例の紹介が多く興味深い。木密の脆弱性を前提とし、建て替えや自主防災組織などによってそれを許容できる範囲までおさえ、それによって旧来からの市街を保存しようとする姿勢は、興味深い。町づくりや保存系に加えて、防災の専門家も加わって、議論しながら作った本だそうで、そのあたりのバランスによるものだろう。不満を言うなら、むしろ木造密集市街地の魅力の紹介が少ないところか。続編として、『残したい「木密」』とか、『この「木密」がすごい』みたいな本が欲しいところ。あと私自身は木密に住んでいるわけではないので関係ないが、仲間を作って活動するというのは発達障害者には難しい話だなと思った。


 コラムの『「神田和泉町佐久間町の奇跡」はなぜ起きたか:正しい教訓の継承が必要』も興味深い。関東大震災時、この両町は住民の消火活動で、周囲が焼ける中奇跡的に焼け残ったそうだ。これにはいくつかの好条件があったことが指摘されている。
 ほぼ同内容が、災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 平成20年3月 1923 関東大震災【第2編】内のコラム1 神田和泉町・佐久間町における住民による消火活動や『広報 消防基金』の関澤愛「地域の自主防災力への期待と現実…:その課題は何か」に掲載されている。
災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 平成18年7月:1923 関東大震災
中央防災会議「災害教訓の継承に関する専門調査会」のページ



 以下、メモ:

木密が高齢化しているのはなぜか
 なぜ木密は高齢化しているのでしょうか。それにはいくつかの理由があります。
 一つには、親の世帯と子の世帯の同居が少ないことがあげられます。核家族化の進行という社会的な背景のほかにも、木密内の住宅の規模が小さいうえに、広くしようとしても建て込んでいるいるので増築ができない、道路条件などのために立替えができないといった問題があり、親子二世帯の同居が難しいようです。
 二つ目としては、木密が若い居住者が求める居住環境の条件に合っていないことがあります。住宅が狭小なため駐車場が持てない、道路が狭いので自宅前まで車を入れられない、隣家との間隔が狭くプライバシーが確保できないといったさまざまな問題があるため、若い居住者は自分たちのニーズにあった環境を求めて、転居するケースが多いようです。p.90

 そうした視点から見ると、木密の多くは都心から比較的近い場所にありますので、仮に住宅の建替えや改善等が進めば、都会的な便利さを求める若い居住者に選択されるようになり、こうした孤独死の問題にも大きく寄与することになるかもしれません。p.92

 うーん、実際のところどうなんだろう。高齢化の理由としては微妙に納得しがたいというか。あと、孤独死の問題は、若い世帯の転入だけでは解決しないと思う。地域の組織化が伴わないと。

 こうした住宅のリフォームブームの中、住宅のリフォームに現行法が適用されないことも一つの理由でしょうが、安易なリフォームが進んでいるように見えます。事実、2007(平成19)年3月25日に起きた能登半島地震や同年7月16日に発生した新潟県中越地震では、「数年前にリフォームしたばかり」という住宅が数多く被害にあいました。たしかに見た目は新築同様にピカピカですが、住宅の耐震性を維持するうえで重要な壁や柱が取り去られてしまったり、一方では表から見えない隠れたところには老朽化し腐朽した柱や梁、シロアリによる被害がそのまま放置されていたようです。これらの地震は、そうした安易なリフォームの問題を露呈したのです。
 リフォームによって、居住空間の快適性や利便性を高めることはもちろん大切なことですが、家族の命やくらしを守る安全な家でなければ元も子もありません。たくさんのお金を使って、せっかくリフォームするのですから、専門家に適切な耐震診断を依頼し、表からは見えない隠れたところの耐震処置もしっかりと行って、家族が安心して快適にくらせる家にしたいところです。p.97-8

 現行法が適用されないというのも酷い話だな。悪徳業者が横行するわけだ。政策が新築志向なのか、単にやる気がないのか知らないが。

 火災の警報については、通常の住宅用火災警報器は火災が発生した部屋のみで警報を知らせるタイプですが、各室の警報が連動するタイプのものもあります。住宅用自動火災報知設備については、さらに中継器と受信機を用いて、火災発生を自動的に決められた場所へ通信することができます。
 住宅用火災警報器等については、各地域の消防署がわかりやすいパンフレットなどを用意していますので、気軽に相談してみましょう。p.117

メモ。

 古い集落を歩くとさまざまな通報手段を見かけます。静岡県藤枝市岡部町は街道筋の旧集落ですが、消火栓のホース格納庫の下には拍子木が置かれ、家々の軒先には「非常板」と書かれた金属板と、それを叩く木槌が下げられています(図8)。岡部宿の「非常板」が各戸の軒先に連なる風景は、個性的な町並みともなっていて、住民の防災に対する心意気を感じさせます。p.126

 写真が掲載されているが、軒先から丸い板がぶら下がっている。これが続くとしたらなかなか楽しい街並みなのではないだろうか。ネット上では、山あいの静かな集落『岡部宿』 [2006/4/29 Sat.]の四枚目で見られる。

 二つ目として、老朽化したブロック塀を改修したり、地震時に倒れないように補強したり、またブロック塀をフェンスや生け垣にしたりすることも重要です。あわせて沿道に建つ建物の耐震化も進めることができればベストです。p.154

 まじ、ブロック塀は危ない。

新たな出火原因、通電火災に要注意
(中略)
 地震が起こったときに電気ストーブやアイロンなどの電化製品を使っていたとします。地震後に停電が発生する場合がありますが、その際、電化製品はガスなどの裸火と違って、すぐにスイッチを切って火の始末ということが思い浮かばないことがあります。そして、もし自宅の損傷が大きくて避難場所へ移動する際にそのままにして家を出た場合、怖いのが電気供給の再開にともないもともと使っていた電気ストーブやアイロンが高熱をもちはじめ、やがて周囲の可燃物に着火して火災が発生することです。阪神・淡路大震災では、熱帯魚観賞用水槽がひっくり返り、水がなくなった後でヒーターに再通電して火災にいたったケースが目立ちました。
 通電火災への対策は、停電が起き、さらに家を離れ留守にする際には、必ずブレーカーを落とすことを心がけることです。また、熱を発する電化製品のコンセントを抜くことも効果的です。現在は、一定以上の地震動を感知して自動的にブレーカーが落ちる感振装置付きブレーカーや自動的にプラグが抜けるコンセントなども発売されています。p.193

 これは実際に怖い。阪神大震災ではよくあったようだし、家電がこけるような揺れがあったときは、いったんブレーカーを落とすのは大事なことだと思う。ショートして発火したりというのもあったように聞くし。電気ストーブには倒れたらスイッチが切れる装置がついているが、そのためのタブが物で抑えられたら、火災が起きる可能性はあるしな。

防火木造のモルタル壁で延焼防止
 図44の写真は、阪神・淡路大震災の大火の焼け止まり調査を行っていたときに発見した建物です。右側の隣接に住宅は全焼していますが、中央の木造住宅は隣まで延焼が及んでいながらモルタル壁一つで延焼を免れ無事でした。このように防火木造のモルタル壁であっても、それが地震動で剥がれたりひび割れたりしなければ、立派に延焼防止の効果をもつことを示しています。一方、図45の写真のように、せっかくモルタル壁で保護していても、地震動で家そのものが損壊し、モルタルが剥がれて下地の木材が露出してしまえば裸木造と同じで、きわめて延焼しやすくなってしまいます。ですから、木造でも火災に強くするためには防火モルタル構造にするだけでなく、モルタル塗りの仕上げをしっかりするとともに建物自体の耐震化もたいへん重要になります。


開口部の保護や位置の工夫でも延焼防止効果
 阪神・淡路大震災では、木造であっても鉄筋コンクリート造であっても、隣り合った建物どうしで開口部が接近している場合には、その窓ガラスが普通ガラスであったり、鉄扉の雨戸などの遮蔽がないケースでは延焼した例が多くありました。一方で、他の地区の焼け跡からトタンを持ってきて、これを延焼中の隣家に面している壁に立てかけて火炎を防ぎ、隣からの延焼防止に成功している例がありました。

 モルタルなどの表面の防火でもずいぶん効果があるという話と開口部は保護する必要があるということ。少女マンガにありがちな、窓を開けたらすぐ前は幼馴染の部屋なんてのは、恋愛にはともかく、防災上は非常に危険ということですな。

木造建築を燃えにくくする薬剤と塗料
 ここでは、木材そのものに手を加え、燃えにくくしたり着火しにくくする方法を紹介します。一つは、特殊な処理によって木材に薬剤を含浸させて、性質を変化させる方法です。もう一つは、木材の表面に特殊な塗料を塗る方法です。塗料には、塗料自体が難燃性のものや、塗料が火の温度で科学的に変化して塗膜をつくり、それによって着火を防ぐものなどがあります。薬剤の含浸は、長期的に性能を確保できるというよさがありますが、手間がかかることと、既存建物の改修に利用しにくいという問題があります。塗料のほうは、既存建物に使いやすいというよさがありますが、屋外に使うと長期の品質保持が難しく定期的な補修が必要になることや、塗料の色によって外観に影響が出るという問題があります。なお、国によっては、木材だけでなく茅のような植物性の燃えやすい屋根材についても、同様の処理を試みているところがあります。ところで、塗料の塗布は、放火を防ぐという意味で防犯上も有効な場合があります。放火犯は、なかなか火がつかないとあせって事をなす前に逃げてしまう性質があるからです。建物全体を処理できなくても、放火されそうな場所にピンポイントで塗装を行って置くのも一つの方法でしょう。p.200

 防火塗料なんてものがあるのだな。手が届きやすそうな所にこれを塗ることによって、放火を防げるという効果も期待できるそうな。→http://ohhashi.net/shop/wp/wp-cp6.htmhttp://www.okitsumo.co.jp/01_products/07.php

「まちなか発防災対応型防災訓練」とは
 地域内で緊急対応を行うための実践的な訓練として、「まちなか発災害対応型防災訓練」というものがあります。この訓練の特徴としては、1「地域点検マップづくり」などを通じて、住民自らが地域の実情に合った訓練を企画立案する、2まちのあちこちに負傷者や火災の発生場所を模擬的につくり出すことにより、まち全体が舞台となる、3町内会役員等の関係者以外は当日の被害の設定現場を知らないので実践的な対応訓練となる、4訓練場所が地域内であるため、飛び入りの参加が奨励される、5訓練資機材は自宅や街頭の消火器、個人の救急箱など身近なものを利用するので防災機材の点検も同時にできる、6参加者全員に臨機応変な判断が要求され、臨場感のある訓練となる、などがあります。p.213

 効果はありそうだが、準備が大変そうだな。根回しの対象が増えそうだ。近所に偏屈なのが住んでいると、トラブルになりそうだし。→久田嘉章ほか「地域住民と自治体の協働による発災対応力の向上と効率的な被害情報収集・共有のための防災訓練」日本地震工学会論文集、9-2、pp.130-147、2009http://www.jaee.gr.jp/stack/submit-j/v09n02/090210_paper.pdf

 防災まちづくりとは本当はそういったものではありません。地域がもつ歴史や風土などを大事にしながら、地域内の日常的な問題を解決するためのまちづくり(たとえば、高齢者福祉のまちづくり、防犯まちづくりなど)に防災の味つけをし、総合的に質の高いまちを実現していく、それが「防災まちづくり」なのです。p.220

 無理のないことは大事なのだろうな。


初期消火用具いろいろ
可搬消防ポンプ等整備資格者 いろいろな資格があるもので
株式会社サイボウ→可搬消防ポンプhttp://www.saibou.co.jp/pomp_aw.htm
可搬消防ポンプ運転マニュアル
可搬消防ポンプとモーターバイクトーハツ株式会社
初期消火用器具の取扱い スタンドパイプの使い方
消火栓設備・放水関連製品
2号消火栓・補助散水栓
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