「瓶の再使用存続の危機」『朝日新聞』10/9/14

 リターナブル瓶とペットボトルでは、どちらが環境負荷が小さいのだろうか。リターナブル瓶も回収・洗浄にそれなりの環境負荷がかかりそうそうではあるが、それでも違うのだろうな。
 このあたりの容器については、環境負荷の多寡に応じて規制をかけてもいいと思うのだが。

 洗って繰り返し使う「リターナブル瓶」が姿を消しつつある。リユース(再使用)の代表格だったが、使い切り容器に押されて一升瓶が減り、瓶の洗浄や再出荷を担う業者の廃業も相次ぐ。環境にやさしい社会に向けて、大学や地域を足湯にリターナブル瓶を普及させようと活動する市民クループもいる。(高橋健次郎、赤井陽介)


洗浄担う「瓶商」廃業
 リターナブル瓶の流通システムを支えるのは、回収した瓶を洗ってメーカーに供給する「瓶商」だ。「この先、収益の確保が難しく、秋には会社の解散手続きに入らざるを得ない」。神戸市にある瓶商会社の社長(63)はため息まじりに語る。
 同社は白鶴酒造(神戸市)の子会社だが、ほかのメー力ーにも一升瓶を供給する。清酒や焼酎の容器として重宝されてきた一升瓶。取扱量は約30年前のピーク時に年間650万本あったが、2009年度は300万本を切った。従業員は約20人。「今はかろうじて黒字だが、退職金を払えるうちに撤退する」
 白鶴酒造が出荷する一升瓶のうち、7割は回収して洗った瓶。だが、瓶商の撤退後、その割合は半減する見通しだ。残りは新瓶で補う。幹部は「新瓶の方が仕入れコストが高い。リユースの割合を元に戻せればよいかもしれないが、大量の一升瓶の洗浄を任せられる瓶商はそうそう見つからない」とこぼす。
 リターナブル瓶は、牛乳やビールにも使われている。
 「1・8L壜再利用事業者協議会」によると、一升瓶の回収率は9割程度と高い。ただ、全体の出荷量は08年で約2億3千万本と10年前の半数以下で、瓶商の廃業が相次ぐ。全国びん商連合会(東京)によると、30年前に千を超えていた会員数は現在約550まで減った。連合会の幹部は「瓶商はリユースを支えてきた社会的インフラ。一度壊れた仕組みを再びっくり直すのは容易ではない」と言う。


啓発にジュース企画
 巻き返しの動きもある。
 奈良県立大学奈良市)の売店に1月、リターナブル瓶を使ったリンゴジュース「APPOO」が登場した。日本酒用の「R300」と呼ばれる300ミリリットル瓶に、青森県産リンゴの果汁100%ジュースをつめた。持ち運びを考え、 5OOミリリットルのベットボトルより少し重い565グラム。学内は一般販売の250円よりも安い150円に抑えた。
 学生の反応は様々だ。アンケートには「環境に興味があり、今後も購入する」といった答えの一方で、「高い」「持ち運びに不安」との意見も。3年の石地順一さんは「飲み残して持ち帰ると、返すのが面倒くさい。それでも、環境への取り組みを考えるきっかけになる」。
 販売を考えたのは市民や奈良県立大生らでつくる「リターナブルびん普及促進協議会」(大阪府八尾市)。会長で同大3年の中島光さんは「まったく新しい瓶を作るには設備が必要。既にある瓶で使える物」を探し回り、R300瓶に行きついた。スクリユーキャップで、開け閉めが自由な点も魅力だった。
 奈良市の喫茶店「葉音」は店頭販売に加えて、希望者に配達している。店を経営するさかいみ穂こさん(45)が、中島さんから取り組みを聞いたのがきっかけだ。「ペットボトル商品より先にアポーを手にとってもらうのは難しいが、できるところからリユースの意識を広げたい」と中島さん。
 アポーは大学などを中心に9月上旬までに1200本以上が売れ、回収率は約81%だった。


「法改正で後押しを」
 循環型社会をめざす取り組みとして挙げられるのは、ゴミを減らす「リデュース」、繰り返し使う「リユース」、資源にして再製品化する「リサイクル」の「3R」だ。一升瓶のリユースは100年以上続くといわれている。これに対し、ペットボトルのリサイクルは1997年施行の「容器包装リサイクル法」(容り法)が後押しした。
 リサイクルばかりが進む現状に一部の市民グループが懸念を抱いた。各地の生協とともに約200団体で「容器包装の3Rを進める全国ネットワーク」 (東京)を結成。リユースとリデュースの「2R」を促進しようと今秋、容り法の改正を求めて署名活動を始める。
 全国ネットは、容リ法によってリサイクル費用を自治体も負担し、メーカーの負担が軽くなることから、使い切り容器の出荷量が引き続き多いままだと主張。同法を改正し、自治体が支払っている分別収集や選別保管の費用を商品価格に上乗せすれば、リサイクルからリユースに切り替える事業者が出てくると期待している。全国ネットワークの中村秀次・事務局次長は「リサイクルに税金を投入することは、ごみを出さない消費者には不公平だ」と話している。